研究課題/領域番号 |
24616007
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
石原 明子 熊本大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (50535739)
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研究分担者 |
奥本 京子 大阪女学院大学, 教養学部, 教授 (70321073)
松井 ケティ 清泉女子大学, 文学部, 教授 (80238930)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 紛争解決 / 修復的正義 / 原発災害 / 葛藤 / 平和構築 |
研究概要 |
「研究1:人間関係のケア学としての紛争解決学のマッピングとショーケース作成」については、プロセス指向心理学による紛争解決の公開ワークショップを行い、参加者に応用可能性についての意見を質問紙で聴取した。 「研究2:日本文化適合的 紛争解決モデルの検討―アジアとの比較検討から」については、2012年8月にNorthern Eastern Asia Peace Instituteにて、日本、中国、韓国、モンゴルのアジア四か国の参加者に対して修復的正義のトレーニングを行う場で参与観察調査を行った。文化により(1)感情の表出方法、(2)ルール違反に対する赦しの文化、(3)怒りや攻撃を外に向けるか内に向けるかといった違いがあることが議論された。修復的正義の現場への応用は、北東アジアでは韓国が先進しており、学校現場での活用や近年では刑法犯罪への活用も模索され始めている。コンフリクトに関する感情を表出しない日本の文化に参考になる事例として、フィジーでの実践が同様な文化特性を踏まえながら活用が始まっているというインタヴュー結果を得た。 「研究3:臨床フィールド研究―原発災害後の地域や家庭における人間関係の崩壊に関する紛争解決学の視点からの分析(中略)対話支援のアクション・リサーチ研究」は、対話支援事業を始めるにあたっての事前アセスメント調査と、コンフリクトに関するインタヴュー調査と参与観察調査を行った。原発被災地域や被災者の中では、地域や家庭での人間関係の分断が多く起こっていることが明らかになった。対話支援事業も、民間による草の根や行政による事業など開始されており、それぞれの事業で(1)目的、(2)対象者、(3)手法などが異なり、その調査と分析が今後必要である。また、原発災害後のコンフリクトでは、非対称コンフリクトの転換モデルであるCurleのモデルの適応が有効ではないかとの暫定的結論を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、研究1,2,3からなり、並行して進める予定であったが、研究2,3を本年度は優先して進める形となった。 研究1については、連続研究会として毎月行うには予算が不足することもあり、講師を一度に集めて集中研究会として25年度以降に行っていくことに変更した。その結果、研究1については、プロセス指向心理学についてのワークショップを市民に向けて行い、その応用可能性等について意見を聴取した。 研究2は、計画通り、8月にNorthern Eastern Asia Peace Instituteにて、アジア各国からの参加者に対して修復的正義のトレーニングを行い、参与観察する形で文化適合性に関する意見聴取をすることができたが、当初計画していたその後の参加者に対する現場での応用実践に関して、継続してインタヴュー調査を行っていくことに関しては、参加者の年齢層が予想よりも若く、現場を持っていない学生が多かったため、現場での応用に関する継続インタヴューは行えなかった。 研究3については、対話支援事業を本年度から開始する予定でいたが、開始する以前のアセスメント調査とアクション・リサーチのためのフィールドとの関係形成に本年度を費やす形となった。アセスメント調査を通じて、すでにいくつかの対話支援事業は開始されており、それぞれの特徴も異なり、それらに関する内容とアウトカム調査研究も重要な研究課題であることが判明した。また、原発被災地では、原発災害を巡り、専門家と市民の間の信頼関係の揺らぎという問題が起こっており、研究者の倫理が改めて問われると同時に、研究者の役割や研究者と市民の関係についても改めて大きな問いが投げらけられており、本事業についても、研究者がそのコンフリクトや傷つきを含めた被災地の現状に関する対話支援事業とアクション・リサーチ研究をしていくための条件と可能性が改めて問われる形となった。
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今後の研究の推進方策 |
研究1については、連続研究会の回数を減らし、一回の研究会に複数の講義者をもつ形で予算を効率的に使用し、本年度から本格的に開始することとした。手法別の研究会を2回程度、また、分野別の研究会を1度ほど実施する予定である。 研究2については、NARPIの参加者への修復的正義の応用実践に関する継続インタヴューはできなかったため、西洋で発展した各種の紛争解決手法を用いて日本で実践をしている実践家へのインタヴュー調査を行うことを開始する。また、研究2のテーマに関して、研究1の手法と合体させ、日本やアジアの紛争解決の知や文化、西洋の紛争解決の知や文化に関する研究会形式での検討を重ねていくことを新たに開始する。日米異文化コミュニケーションの専門家、タイ、日本、英国で本テーマを研究する研究者らと協働し進めていく。 研究3については、すでに東北や北関東で開始されている対話プロジェクトについて、目的、方法論、射程、成果と問題点等についてインタヴュー調査を行う。また、アクション・リサーチ研究については、研究代表者が熊本在住の研究班として継続性を持って責任を持って行っていける対話支援の在り方について、東北や北関東の対話支援リーダーなどと協議しながら、適切な形を探り、プロジェクトを推進していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究1に関して、年間3回の集中研究会を予定している。1回につき、講演者6名を招聘し、研究を実施する。講演者は、北海道から東京、大阪、九州までを含むため、その旅費や記録作成費に研究費を使用する。 研究2については、日本やアジアでの紛争解決の実践者へのインタヴュー調査と、日本やアジアの紛争解決の知や文化・西洋の紛争解決の知や文化に関する研究会のための旅費等に使用する。 研究3については、福島や北関東へのインタヴュー調査と参与観察と、対話支援アクション・リサーチのための旅費として研究費を使用する。
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