研究課題/領域番号 |
24616014
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
三砂 ちづる 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (70342889)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 母子保健 / 公衆衛生 / 保育 / 子育て支援 / 乳幼児の発達 / 排泄ケア / 保育園 / 老人介護 |
研究概要 |
研究代表者は、乳幼児の排泄のタイミングに周囲が気づくことで、できるだけおむつの外で排泄する「おむつなし育児」の研究をトヨタ財団の助成を得て、2007年から行ってきた。結果として子どもの便秘やおむつかぶれも減り、一歳前後でおむつが必要でなくなるため、子どもも機嫌がよく、母親も楽であることから多くの人に知られるようになってきている。排泄に周囲が向き合うことにより、おむつの使用が減っていく乳幼児の経験を、保育施設や地域医療の現場に広げ、また、老人介護の分野でのとりくみにも広げていく可能性を探ることが本研究の目的である。 現在、トヨタ財団の助成をうけておこなったおむつなし育児の実践研究を経験した子どもたちが4歳になっており、実際に顔の見える範囲でセミナーに参加し、フォローアップをしてきた女性たちとその子どもたちをこの研究の枠組みで追っていきたいと考え、初年度にもミーティングや聞き取りを行ってきた。おむつなし育児で育ってきた子どもたちは、母親たちの言葉によると、「眼力」があり、自分の意見をはっきりと持っており、動きも機敏で、転びかけてもおっとっと、と持ち直すことが多くて軸がしっかりした体であるという。この母親たちや子どもたちの様子を今後も追い続けていきたい。 「おむつなし育児」を実際にすでに実践している保育園において観察や聞き取りも行った。3歳になってもまだおむつをしている子どもたちが多いことは母親よりむしろ保育士をはじめとする保育関係者に共有されている危惧である。ゼロ歳児クラスからおむつなし育児を実践している保育園において、こどもたちはおだやかであり、保育士たちも一様に「排泄を中心に置く育児の新しさと楽しさ」について語っていた。本年度は施設展開についてさらにシステマティックな提言ができるように研究を続けていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は(1)「おむつをなるべく使わない育児と介護」に関して、文献調査を行うとともに、関係者からの聞き取りを始めること、(2)「おむつなし育児の保育施設における実践に関する質的調査」のデータ収集を始めること、(3)「おむつをできるだけ使わない老人介護の実践に関する質的調査」の準備をすること、が、計画された具体的な研究内容であった。 (1)に関しては、社会科学、公衆衛生、保育、介護、福祉などの資料をデータベースおよび関係諸機関を通じて系統的に検索収集した。文献調査は予定通り初年度中に終了しており、次年度には論文にする予定である。トヨタ財団の助成をうけておこなったおむつなし育児の実践研究を経験した母親とその子供たちのフォローアップミーティングおよび聞き取りを行った。心身の発達がすぐれている、おむつはずしの時期がはやい、母親の子育て負担感が少ない、などのことがうかがわれた。これらの調査結果について次年度には学会発表を行うとともに、質的調査の結果をおりこんだ質問票を用いた横断研究も行う予定である。 (2)に関しては、全国の保育園で「おむつなし育児」の実践をしていると思われる園を探し、そのうち横浜と名古屋の保育園において重点的な観察と聞き取りを行った。次年度には保育園での観察を続け、学会発表、論文化も行う予定である。 (3)に関しては文献調査を行うとともに、長く老人介護の場でおむつ外しを実践しておられる三好春樹氏を中心とする「おむつ外し学会」に参加したり、現在実践している施設とのコンタクトを取ったりし始め、次年度の調査の準備を進めた。 以上すべて計画通り順調に進んでおり、初年度の成果は達成されている、といえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も(1)「おむつをなるべく使わない育児と介護」、(2)「おむつなし育児の保育施設における実践に関する質的調査」(3)「おむつをできるだけ使わない老人介護の実践に関する質的調査」、のそれぞれの分野で計画通りの活動をすすめることを目指している。 (1)に関しては、次年度には、初年度で行った文献検索を元に、レビュー論文を仕上げる。また、昨年度中に行ったおむつなし育児経験者におこなった質的調査のデータを分析し、学会発表、論文作成を行う。この質的調査を参考にした質問票を作成し、おむつなし育児を行った母親を対象とする横断研究を行う。この量的データの解析および発表も次年度の課題である。また次年度には、おむつをなるべく使わない育児と介護についての海外調査も行うことを予定している。家庭医学の枠組みからの検討、医療経済学的な観点からの検討も、研究協力者とともに行う。 (2)に関しては、初年度に引き続き、実際におむつなし育児を実践している保育園を訪問し、丁寧な観察と、聞き取り調査を行う。初年度に行った観察結果とともに、保育園でおむつなし育児をすすめていくことの意義、および、すすめるためのマニュアル作りなどに着手するとともに、学会発表、論文作成も目指し、保育関係者への周知の機会を多く作るようにする。 (3)に関しては、ひきつづき、おむつをできるだけ使わない老人施設とのコンタクトを広げ、この研究で得られた乳幼児のおむつなし育児の知見が老人介護の分野でより生かされていくようなパイプ作りを目指していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
海外事例調査を予定していたが、調査準備が必要のため1年遅らせ、調査計画を進めている。25年度にキューバへ訪問し、保育と介護の地域展開のための情報や調査を行う。昨年度の繰り越し分の金額は、海外の調査旅費及び、調査のための資料収集のための物品費などに充てる。
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