研究課題/領域番号 |
24616014
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
三砂 ちづる 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (70342889)
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キーワード | 母子保健 / 公衆衛生 / 保育 / 子育て支援 / 乳幼児の発達 / 排泄ケア / 老人介護 / 保育園 |
研究概要 |
乳幼児の排泄のタイミングに周囲が気づくことで、できるだけおむつの外で排泄する「おむつなし育児」の研究を2007年から行ってきた。結果として子どもの便秘やおむつかぶれも減り、1歳前後でおむつが必要でなくなるため、子どもも機嫌がよく、母親も楽出ることから多くの人に知られるようになってきている。排泄に周囲が向き合うことにより、おむつの使用が減っていく乳幼児の経験を、保育施設や地域医療現場に広げ、また、老人介護の分野での取り組みにも広げていく可能性を探ることを目的に研究を進めている。 おむつなし育児の当初の実践研究を経験し、フォローアップをしてきたその子ども達が5歳になっており、この研究の枠組みでさらに追っていきたいと考え、昨年度から毎年ミーティングや聞き取りを行ってきた。質問票調査もおこない、現在データ分析中である。「おむつなし育児」を実際にすでに実践している熊本県内保育園に関して、昨年度に続き、聞き取り・間接調査を複数回行った。昨年度調査した二カ所の保育園と同様、0歳児クラスからおむつなし育児を実践しており、子ども達は穏やかであり、保育士達も一様に「排泄を中心に置く育児の新しさと楽しさ」について語っていた。次年度は、これらの調査結果をベースに、施設展開にシステマティックな提言ができる資料の作成を目指す。 「おむつなし介護」を実践する東京都内の特別養護老人ホーム2カ所において、聞き取り・観察調査を行い、老人の「おむつなし」と赤ちゃんの「おむつなし」には共通する課題が非常に多いことが明らかになった。本年度は「おむつなし介護」と「おむつなし育児」に共通する課題を知見として取りまとめていく。 地域に根ざした医療、福祉の先進的な取り組みで知られるキューバを訪問し、家庭医療の枠組みの中での排泄を中心にした保育、介護、医療についての議論をふかめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度も(1)「おむつをなるべく使わない育児と介護」の文献調査を行うとともに、関係者から聞き取りを始めること。(2)「おむつなし育児の保育施設」における実践に関する質的調査」のデータ収集を始めること。(3)「おむつをできるだけ使わない老人介護の実践に関する質的調査」の準備をすることが計画であった。 (1)に関しては、社会科学、公衆衛生、保育、介護、福祉などの論文資料を、データベースおよび関係諸機関を通じて系統的に検索収集した。その中で問題として浮かび上がってきた「子どもと便秘」「子どもとハイハイ」に関する論文を検索収集。またおむつなし育児経験者を対象に実施した質的調査のデータを分析し、学会発表、論文作成を行った。この質的調査結果を参考にして質問票を作成し、おむつなし育児を行った母親を対象とする横断研究的な量的調査を開始した。この量的データの解析および発表が次年度の課題となる。おむつをなるべく使わない育児と介護について、家庭医学の枠組みと医療経済学的な観点から、研究協力者とともに海外調査を行った。 (2)に関しては、昨年度に引き続き、実際におむつなし育児を実践する保育園を訪問し、観察と聞き取り調査を行った。昨年度から行ってきた調査結果とともに、今後は保育園でおむつなし育児を進めていくことの意義およびマニュアル作りなどに着手するとともに保育関係者への周知の機会を多く作るようにする。 (3)に関しては、「おむつなし介護」を実践する東京都内の2か所の公立・私立の特別養護老人ホームを訪問し、聞き取りと観察調査を行った。その結果、高齢者と赤ちゃんのおむつ使用の課題には共通する課題が非常に多く、互いの知見を活かすことが可能であることが確認された。次年度では、それら共通する課題についてとりまとめていく予定である。 以上すべて計画通り順調に進んでおり、今年度の成果は達成されている、といえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も(1)「おむつをなるべく使わない育児と介護」、(2)「おむつなし育児の保育施設における実践に関する質的調査」(3)「おむつをできるだけ使わない老人介護の実践に関する質的調査」、のそれぞれの分野で計画通りの活動をすすめることを目指している。 (1)に関しては、次年度には、昨年度から開始したおむつなし育児を経験した母親対象の質問票による量的調査のデータを分析し、学会発表、論文作成を行う。これら母親を対象としたフォローアップの質的調査も継続実施する。 (2)に関しては、昨年度および今年度に実施した、横浜、名古屋、熊本で実際におむつなし育児を実践する保育園の調査結果をベースに、今年度実施した「おむつなし介護」を実施する特別養護老人ホームでの調査結果も参考にしながら、保育園でおむつなし育児をすすめていくことの意義、および、すすめるための資料を作成するとともに、学会発表、論文作成も目指し、保育関係者への周知の機会を多く作るようにする。 (3)に関しては、老人施設での聞き取り・観察調査を継続すると共に、今年度の聞き取り・観察調査及び文献調査結果と合わせて、「赤ちゃんのおむつなし育児」と「高齢者のおむつなし介護」の間に共通する課題や知見についてとりまとめていく。 また、次年度の研究終了時には、上記(1)(2)(3)の研究成果全体を発表するためのシンポジウム的な催しを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
予定していたおむつなし育児を実践した母親への調査アンケートが遅れ、郵送代などを26年度に申請する。 繰り越し分の金額は、調査アンケートの郵送代とそれにかかる郵送の人件費などに充てる。
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