本研究は平成27年度が最終年度であった。最終年度も研究代表者、研究分担者がそれぞれ計画に従い研究を実施し定常型社会におけるケアとそれを支えるシステムについて考察を行った。また研究会を実施し、研究分担者の大北が「ヘルス・プロモーションの哲学的・倫理学的考察 日本のポリシーの変遷に基づいて」というタイトルで、そして甲南女子大学の青野美里氏には「拡張型心筋症を病むということの経験―壮年期の人々の語りに焦点を当てて―』というタイトルで報告を行っていただいた。また紀平、浜渦、大北の三名はこの研究課題の研究成果を示す論文を執筆し、研究報告書を作成した。 紀平は「定常型社会における予防原則」というタイトルで、環境問題を回避するために重要な原則である予防原則について考察を行った。予防原則については、リオ宣言において提唱されているような「弱い」予防原則とウイングスプレッド声明などで述べられている「強い」予防原則とが考えられる。どちらの予防原則がより適切な解釈なのかを考えるためには、予防原則が適用される社会がどのような社会であるべきかを考える必要がある。環境社会に鑑みて、持続可能な社会がこれからの社会のあり方であるといわれるが、この場合の「持続可能性」も幅の広い概念である。しかし、本研究課題がタイトルにも掲げているように、定常型社会こそが持続可能な社会の具体像を示すものであるなら、予防原則もそのような社会に適合するような原則でなければならないだろう。そうであるなら、予防原則は定常型社会が示す強い持続可能性の延長線上にあるべきであり、どちらかといえば、ウイングスプレッド声明において主張されている強い予防原則を採用すべきではないだろうか、ということを明らかにした。これが本研究課題の成果の一つである。
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