研究課題/領域番号 |
24616025
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 吉備国際大学 |
研究代表者 |
平上 二九三 吉備国際大学, 保健医療福祉学部, 教授 (60278976)
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研究分担者 |
横井 輝夫 吉備国際大学, 保健医療福祉学部, 准教授 (00412247)
齋藤 圭介 吉備国際大学, 保健医療福祉学部, 教授 (20325913)
野中 哲士 吉備国際大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (20520133)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 超高齢脳卒中患者 / 回復期リハビリテーション / ケア / 介入ポイント / 臨床実践研究 / 症例検討会 / 患者中心のアプローチ |
研究概要 |
本研究は回復期リハビリテーション(リハ)病棟に入院する超高齢脳卒中患者を対象とし、患者が抱える問題にはどのようものがあるのか、それに対して現場でどのような介入ポイントが見いだされていくのかを人間全体を見つめる包括的な視点に立って具体的に示すことを目的とした。 当該病院の回復期リハ病棟に平成22年4月から24年10月までに入院した80歳以上の脳卒中患者全35例を対象とし、患者の問題点を、臨床像・障害像・心理面・環境面の四側面から捉え、選択された介入ポイントとともに提示した。臨床像はこれまでにどのような治療を受けて来られたのか、障害像はその方の力の限界はどれくらいなのか、また同時にその方の特性(優れている点)はどこなのか、心理面はどんな性格や生活習慣をもたれた人か、環境面はこれまでにどのような生活をしておられたのか、また介入ポイントは今、ここで何をすべきかを記述した。 その結果、きわめて多様かつ複合的な問題が見られる中で、経管栄養中の患者の有する残存機能の探索、不全麻痺と既存症の運動機能障害への個別対応、個別的な独自の移乗・移動方法の検討、認知機能面に配慮したケア対応が求められていた。また介入ポイントは、経過的に患者のおかれた状況を新たに理解する評価と、また状況の変化を共に生み出す試みの治療から選択していた。 これらから80歳以上の脳卒中患者が抱える問題はきわめて多様であること、さらに個別性・多様性を考慮した上で回復・改善の可能性を見いだすリハと同時にケアが重要であることが具体的に示された。一方、介入ポイントは、状況が不安定で曖昧であることから、ケアの視点とチーム医療の観点から共感的・組織的に選択していく必要性があることが示唆された。 今後は、チーム医療と患者中心のアプローチとしてリハ方針の決定に介入ポイントが有用であることを検証していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超高齢脳卒中患者の抱える複雑で多様な問題を捉える試みを進める一方、個別性・多様性を考慮した上で、ケアの視点に立って回復・改善の手がかりとなる介入ポイントを、どのように導きだしていくかを検討する必要がある。そこで実際のリハビリテーション(リハ)現場で介入ポイントがどのように選択されていくのかを、事例を通して介入過程から明示した。 当該病院の回復期リハ病棟に入院した84歳女性を対象とし、発症後4・6・8・15週目の計4回における介入過程を、介入前の情報・介入的な評価・治療的な介入・介入による見込、の四側面から記述し、選択された介入ポイントを提示した。介入前の情報は患者にとって意味のある介入を行うための事前情報とし、介入的な評価は身体機能の回復や改善につながる障害像の新たな理解とした。さらに治療的な介入は身体的な障害を軽減し回復・改善の可能性を引き伸ばし、状況の変化を共に生み出すのに役立つ介入とした。この治療的な介入から導きかれた方針を介入ポイントとし、介入による見込は介入によって期待される成果とした。なお、これら4つの区分は、実践的な介入過程を示すものである。その一方、思考的な介入過程については、介入前・介入中・介入後の3つに区分して記述した。 その結果、介入ポイントは(1)介入前の創発的な推察・介入中の実践的な洞察・介入後の内省的な推測の3つの思考過程と、(2)実践過程の四側面から全体として一つが選択されていたことが本事例によって示された。さらに現場で導かれた介入ポイントは、1)変化に着目し経過を踏まえた対応、2)能動的な発言や行為、3)現場で観察された事実、4)共感的かつ相互的、5)継続可能な状況づくりの5点から探求されていた。 以上のことから患者にとってケアの視点に立った意味と意義のある介入ポイントを創発していく臨機応変でダイナミックな臨床推論的な枠組みが示された。
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今後の研究の推進方策 |
超高齢脳卒中患者のリハビリテーション(リハ)の実践においては、患者がおかれている複雑で多様な状況に対して今、何がなされるべきかの介入ポイントを見いだしていく過程がある。そのため療法士にとっては、患者の能動的な行為を生み出していくために相互行為が欠かせない。今後は、現場の臨床実践を通して、ケアの視点に立った患者との相互的な関わり方について検討していく。 介入ポイントは、複雑・多様な問題を抱える患者に対して、まさに今、何がなされるべきかの発見であり、非力な患者に能動的な行為を生起させる意味と価値に満ちたものである。そこでリハ介入における対人知覚(患者の特性をどう把握したか)と対人協調(患者の行為をどう調整したか)の中で、介入ポイントが導き出された過程を記述していくことを試みる。その上で療法士と患者の相互行為を詳細に観察し記述することに何の意味と価値があるのかを問い直してみたい。 療法士が患者の能動的な歩行を引き出すために必要最小限の身体操作を行う介助歩行場面がある。その実際の介助歩行中の動画分析から検討していく。時間分析ソフト Actogram1.1(OCTARES EDITIONS)を用いて、介助者および患者の立脚期(踵接地から爪先離地)・遊脚期・両脚支持期の時間を動画から計測する。また動作解析ソフトFORM FINDER (Medical Edition) を用いて、介入ポイントの同定に至った瞬間を連続写真で分析し、距離・角度・加速度など数値解析する。このことから視覚的に介入前後や回復過程について評価し、また熟練者と初心者の介助スキルの比較分析を行う。 介入ポイントは状況依存性であることから、文脈的理解の中にその意味と価値が伝わるように配慮するとともに、写真や動画などの画像データを組込むことで、リハの質をケアの視点から探求した介入ポイントの有用性を検証していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
超高齢(80歳以上)脳卒中回復期リハビリテーション(リハ)患者の介入ポイントに関するデータは、平成22年4月から25年4月までに51症例を得ている。25年度は、24年度に整備したフィールドワーク用観察システム一式を活用して動画解析を行い、ケアの視点から同定された介入ポイントを整理し英文雑誌へ投稿していく。現在、「Stroke Rehabilitation Interventions in the Very Old: Complexity and Multidimensionality of the Rehabilitation Needs 」をタイトルとした英語論文を作成中である。次いで3編の投稿原稿を準備しており、24年度の研究費の残額を充当し順次、翻訳していく予定である。以下に論文題目を示す。 1)超高齢脳卒中患者の一症例を通した新たな介入過程と介入ポイントの試み、2)超高齢脳卒中患者の障害像を新たに理解する評価と治療から導かれた介入ポイント、3)熟年理学療法士の臨床実践における実践スキルの抽出 また、26年度に予定していた書籍化が早まり、24年12月から医学出版社と企画検討中である。学術論文への投稿に合わせて、当初の研究計画であった介入ポイントの事例集の発刊に向けて25年度研究費を充当していく。以下に出版の企画案を示す。 複雑で多様化した問題を抱えリハに難渋することの多い脳卒中回復期患者に対し、患者の何を問題とし、どのような可能性を見出して介入を行うかというプロセスを示す。従来の教科書的な「情報収集」、「検査・測定」、「問題点の抽出」といった評価では太刀打ちできない、主観的側面を重視したオーダーメイドのリハ医療を行うために必要となる患者像の捉え方と実際の介入への活かし方を理解できるものとして本書を企画する。
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