研究課題/領域番号 |
24616027
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋柳城短期大学 |
研究代表者 |
村上 誠 名古屋柳城短期大学, その他部局等, 教授 (30331606)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 保育空間 / 保育環境 / アクションリサーチ / 子どもとアート |
研究概要 |
ケアされる立場にある乳幼児が、本当はどのような生活環境を望んでいるのかを、3つの方法でリサーチした。環境という言葉が茫洋としているため、今年度は環境を〈空間〉という言葉に置き換え、少し意味を狭めての調査・研究を試みた。1つは、ドイツの先端的な保育、及びケア空間の視察。2つ目は、そもそも人間にとっての<空間>とは何かを、4つの異なる領域に関わる表現者の<空間>についての問題意識から追求した。3つ目は、乳幼児のアートの活動を通して、彼らがどのような<空間>を創り出していくのかを、アクションリサーチの手法によって調査した。以下、具体的な活動を列挙する。 1)平成24年8月28日~9月7日までドイツ、デュッセルドルフ市内と近郊の子どもの施設等を視察。幼稚園2園、保育園3園、小学校・養護学校・障害者施設・高齢者施設を各1施設訪問。主に保育・生活空間と施設内でのアート活動について取材した。 2)「四つの域」展を企画。平成24年4月から準備を進め、25年3月9日~31日までギャラリーCAVEで開催した。四つの領域の表現者(夏目とも子/美術、村上渡/農業、夏目琢史/歴史学、村上誠/保育空間学)が、それぞれの考える<空間>を美術的仮設作品(インスタレーション)として制作・公開した。 3)保育現場と公立美術館で、乳幼児の空間を考えるアートワークショップを企画・実践。①7月11日:愛知県みよし市M幼稚園「わたしのすきな場所」②8月2日、3日:愛知県美術館「そら、とべるかな?」③8月8日:愛知県保育士研修会「こどもにとって気持ちの良い場所」④8月21日:名古屋市R幼稚園「アートであそぶ」⑤10月21日:刈谷市美術館「アートでどうぶつえん」⑥12月25日、26日:浜松市N保育園「わたしのすきな場所」
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)ドイツの子ども施設は15年前に一度視察していたが、その時訪れた幼稚園と保育園各1園を再訪することができた。保育空間は15年前とほとんど同じだったが、ドイツの経済優先政策による福祉関係の援助の停滞が感じられ、そのことは現場で働く人たちとの意見交換の中でも強く伝わってきた。スヌーズレンなどの新しい空間設営も見ることができたが、これらはドイツのオリジナルではなく、スウェーデンやオランダの模倣であった。保育も教育も“生きている”ものであることを実感させられ、貴重な体験となった。 2)空間の問題を、領域の異なる専門家が意見を出し合いながら、一つの展覧会を創作することができた。美術は視覚を中心にした空間の区切りであり、農業は人の手による耕作地と自然との空間のせめぎ合いである。また、歴史学からはアジールという人間が逃げ込む場が提示され、アジールという概念そのものがケア空間であり、同時に幼き子たちの保育空間そのものであることが示された。 3)乳幼児とのアートワークショップでは、彼らの空間への思いが、彼らの身体と深く関わりがあることが示された。創る〈もの〉や〈場所=空間〉は、すべて彼らの身体の尺度が大きな要因となり、また動きには必ず休息が伴い、その休息が、次のイメージの跳躍に深く関わっていることが推測された。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる平成25年度の活動は、おおよそ4つに分けられる。 1)「四つの域」展の記録集の出版。これに参加した3名と研究者本人の空間についての考えを対話形式で聞き出し、それを展覧会の作品記録と合わせ、A4サイズ28ページ(予定)の冊子として発表する。 2)平成24年度に実施したアートワークショップの記録を整理し、平成25年5月の日本保育学会福岡大会で発表する。テーマ「新聞紙を素材とした遊びにみる子どもの表現と身体性-造形行為における場の創出をめぐって-」(仮題) 3)幼児の創造的な活動に関するシンポジウムを企画、及び参加。平成26年1月に愛知県美術館で予定されている(現時点での詳細は未定)。 4)アートワークショップによるアクションリサーチのさらなる実践。平成25年度は、浜松市内の幼稚園・保育園での実践を予定している。また、愛知県美術館でも11月と12月に幼児を対象にしたアートワークショップを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記、1)の記録集を公にするための印刷費用として研究費のほぼ半分を使用する。具体的には、編集・デザイン費、印刷製本費である。2)の学会参加費(旅費も含め)は所属校の個人研究費を使用するため、科研費は使用しない。3)のシンポジウムも科研費は使用しない。4)のアートワークショップでは、仮設の保育空間を構築するための材料、記録のための機材と消耗品を科研費で購入する予定である。
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