研究課題/領域番号 |
24616028
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研究機関 | 奈良文化女子短期大学 |
研究代表者 |
東村 知子 奈良文化女子短期大学, その他部局等, 准教授 (30432587)
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研究分担者 |
西川 勝 大阪大学, 学内共同利用施設等, 教授 (10420423)
麻生 武 奈良女子大学, その他部局等, 教授 (70184132)
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キーワード | ケア / 自己物語 / 文献検討 / 対話 / フィールド / 実践知 / 不在の顕在 |
研究概要 |
本研究ではこれまで、「関係」と「物語」を、心理学的観点からケア現象を捉えるうえでの鍵概念に設定し、理論的研究とフィールドにおけるケア現象の再記述の二つを柱として研究を進めてきた。平成25年度は、理論的研究として、「傾聴」概念の再考とハイデガーの『存在と時間』の文献検討を行い、フィールド研究として、特別支援教育におけるケア実践と、在宅ケアにおける「別れ」について検討した。それぞれについてえられた成果は以下のとおりである。 1.理論的研究 日本質的心理学会において、シンポジウム「傾聴の暴力性――自己物語を聴くことの危うさ」を主催した。ケアする者とケアされる者との反転すなわち権力の問題、語りの相対主義の問題、他者によって語られる自己物語がもつ可能性、というこれまでに見出された三つの観点について議論と問題提起を行い、それらが、質的心理学が直面する根源的な問題であることを確認した。さらにハイデガーの『存在と時間』の検討を通して、上記の問題を見るための新たな二つの視点がえられた。一つは、自己物語が抱える二つの矛盾、すなわち自己の世界内在性と外在性の矛盾、および自己物語の二重性であり、もう一つは、「死」へと向かって先駆する運動によって「時間」が生じるという視点である。 2.フィールド研究 教師による特別支援教育の実践報告、および語り直しデータから、障がい児教育におけるケアの問題について検討した。その結果、今後考察を進めていく視点として、マニュアル化できない障がい児教育の実践知を言葉で語ることは可能なのか、その実践知が前提としている(目指すべきものとしての)「発達」観とはどのようなものか、の二つがえられた。また、在宅ケア研究会において哲学カフェを実施し、「別れ」について議論した。その結果、死者との関係性としての「不在の顕在」という新たな概念が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者の産前産後休暇および育児休業の取得により、平成25年度は研究期間が5か月間しかなかったため、予定していた特別支援教育に関する書籍の執筆が次年度に持越しとなった。しかしながら、理論的研究については、前項で述べたように一定の成果が得られ、これから考察を深めていくべき方向性も見えてきている。また、次項で述べるように、フィールド研究に関しても、次年度以降の具体的な計画が立っている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで行ってきた文献検討(理論的研究)と、各フィールドのケア現象に関するデータ分析・考察を引き続き行う。具体的には、まず特別支援教育をテーマとする書籍を、現場の教員と共同で執筆し、障がい児教育におけるケアについて新たな論を展開する。さらに、前述のシンポジウムで見出された論点について、外部の研究者も交えて議論と考察を深め、これまで行ってきた文献検討およびフィールド研究の成果と統合し、メタ理論としてまとめる。その成果は、書籍もしくは報告書として刊行する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者の産前産後休暇および育児休業取得により、年度途中で研究を中断したため、次年度使用額が生じた。 下記のとおり補助事業期間延長の承認を受けており、次年度使用額は、育児休業終了後(平成26年9月)より使用する予定である。研究費は、分析・考察に必要な参考資料と機器の購入、研究成果発表のための研究会・学会等への参加費用、および文献検討・書籍執筆に関する打ち合わせにかかる費用に充てる。
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