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2012 年度 実施状況報告書

文化のグローバル化におけるローカル化および再グローバル化現象の民族誌的研究

研究課題

研究課題/領域番号 24617003
研究種目

基盤研究(C)

研究機関東京大学

研究代表者

白石 さや  東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (70288679)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2015-03-31
キーワードサンチアゴ・デ・コンポステーラ / ラ・コルナ / サラマンカ / マドリッド / バルセロナ / サロン・デル・マンガ / ボルテイモア / オタコン
研究概要

マンガ・アニメのグローバルな普及における第三期の調査研究として、1-2年度に集中的に現地調査を実施するという研究実施計画に基づき、アメリカと欧州での現地調査を実施した。時間の制約のために、アジア地域での調査はインドネシアのみで、平成25年度へ繰り越した。欧米の文化伝統の文脈でみることで、マンガ・アニメがすでに日本文化からグローバル文化としての様相を獲得していることが把握できたことの意義は大きい。
1)スペイン調査:平成24年5月17日ー5月25日、Santiago de Compostela, La Coruna, Salamanca,Madrid.
スペインにおける巡礼路の聖地としての豊かな伝統的文化と、そこに彩を添えて溶け込んでいるコミック店(伝統的な欧州のコミック店に、若い店員と共に日本のマンガが浸透しつつある)で、現地ファンによる活動情報を得た。海岸のリゾート地においてもアニメ・コンベンションが開催されるようになり、サラマンカ大学日西文化センターではポピュラーカルチャーのスペイン内外への発信と受容の状況を取材できた。日本大使館の文化担当の方々との情報交換を行った。
2)ボルティモア・オタコン調査:平成24年7月26日ー7月31日、アメリカ東海岸で最大規模を誇るアニメ・コンベンションであり、現在に至るまでファンによるボランティア活動で企画開催されるというアメリカにおけるアニメ・コンの伝統を守っている。
3)スペイン・バルセロナでのサロン・デル・マンガ調査、平成24年10月31日ー11月6日、伝統的な欧州コミック・コンベンションからマンガのコンベンションが独立した経過とその実態が把握できた。
4)バリ島調査、平成25年3月23日ー3月28日、マンガ家自身が海外に在住し、現地でマンガ家養成に尽力している実態調査。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当研究費により、スペインとアメリカの主要なアニメ・コンベンションに参加することができ、これまで積上げてきた日本はもちろん、イタリアや台湾、香港の同様のイベントとの比較が可能となった。その結果、主要にはアジア各地で展開した第一期、第二期に引き続き、第三期として、欧米におけるマンガ・アニメの受容とこの20年の間にわたりマンガ需要に生起した「グローバルな世界の一端としてのローカル化」の実態が実感として把握できた。
欧米という近代化を先導してきた地域におけるファンとの交流から、マンガやアニメがすでに今日のグローバル文化として、日本国内におけるとは異なる現代世界のポピュラーカルチャーとなっていることが分かった。すなわち、マンガ・アニメが、世界各地で新たな情報コミュニケーション技術を取り入れて登場しつつある新世代の若者たちの、ネットを通じたデジタル文化として日常生活の一部となっていること、さらにその若い人々(すでにこの20年間の受容の歴史を経て、40歳代に達した人もいる)が、アニメ・コンベンションというイベントの開催において、かっての村落共同体における祭礼と同様に、一堂に集まって肌を触れ合いながら共同体的な同志意識の確認を楽しんでいることがわかった。そこではパネルで各領域の専門家の講演を聞き、意見交換をし、音楽やコスプレ・パフォーマンスを楽しみ、憧れの声優やマンガ原作家やアニメ・プロデューサーを招いてサイン会を開き、新旧のアニメを観て、関連グッヅを購入する等々の、祭礼的時間と空間が演出されている。グローバル文化としての各地域のアニメ・コンベンション間の共通項と同時に、各地域に特有のローカル色や歴史的伝統も豊かに継承されている。当研究におけるマンガ・アニメの普及という現地調査の先に、グローバルな情報世界と、ローカルな文化伝統とに立脚した、グローバル世代の存在とその特質とが見えてきた。

今後の研究の推進方策

研究実施計画に基づき、引き続き資料の収集と整理に務める一方で、世界の各地での現地調査を企画実施する。初年度に十分に果たせなかったアジア地域の調査と、欧米における新興の文化流通産業のビジネスモデル生成の実態調査を進める。
1)インドネシア、マンガ・アニメ調査の開始時以来、いわば定点観測地となっているインドネシアと台湾において、プロデビューした現地のマンガ作家の活動ぶりと、日本国内を含めて世界各地で現出しているマンガ出版流通業界の経済的諸課題とその対応策の実態を、デジタル・メディア化との兼ね合いで調査する。
2)ベルギー、欧州の書籍流通業界の再編成と寡占化が進行している。その実態および、対抗軸としての各地のマンガ情報出版で起業した人々の活動の現状とを探求する。
3)アメリカ、情報コミュニケーション技術の進展と、デジタル・リテラシーを獲得した新グローバル世代の活動が最も活発な同地において、初年度に引き続き、グローバル世代によるライフスタイルの実態調査と、海外のファンである彼ら自身が、もはや単なる消費者としてではなく、日本においてマンガ・アニメ業界が直面している諸課題に対処すべくグローバル・マーケットでマンガやアニメの創造性を保護育成することを目指すビジネスモデルを探求しているその可能性を探る。
4)中国、マンガ・アニメのグローバル化が、これまで世界の各地で、主要には非国家主体としての華人華僑網や、出版社やテレビ局や広告業者、個々のファンの努力で進展してきたのに対して、近年の中国・韓国では国家の積極的なコンテンツ産業育成政策として新たな業態による制作と普及活動が実施されている。その実態を調査する。
5)国内外のマンガ・アニメ研究者との交流のために、調査研究結果の発信と、研究会による情報交換を実施する。また最終年度に向けて、調査研究の成果に基づくエスノグラフィ記述を進める。

次年度の研究費の使用計画

研究実施計画に基づき、初年度に引き続き海外での現地調査を行うために、交通費宿泊費経費、現地でのマンガ・アニメ事情に通じた案内・通訳者およびインタビュー対象者への謝金、複数言語にわたる資料の収集翻訳整理に係る諸経費と謝金が主要な研究費の使途となる。
具体的には上記に記載したように欧州(約50万円)と、アジア(約40万円)と、米国(約40万円)における現地調査と、またその基礎固めとして日本国内の著作権所有者のインタビュー調査も肝要であり、その交通費経費が見込まれる。資料文献の収集購入送付整理の経費と、上記の調査研究の協力者やアルバイトや通訳翻訳者等への謝金がそれぞれ計上される。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2013 2012 その他

すべて 雑誌論文 (5件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 「世界の中の文化創成」2013

    • 著者名/発表者名
      白石さや(基調講演の報告書)
    • 雑誌名

      『文化創世の現状と展望』

      巻: 中間報告書 ページ: 6-9

  • [雑誌論文] 「アチェ語の教科書に見る<読む>こと:文化の喪失と創造」2013

    • 著者名/発表者名
      白石さや
    • 雑誌名

      『東京大学大学院教育学研究科紀要』

      巻: 第52巻 ページ: 41-59

  • [雑誌論文] 「特別シンポジウム<災害と言葉>」2013

    • 著者名/発表者名
      東浩紀・平野啓一郎・星加良司(以上はパネリスト)・川村湊(モデレーター)・白石さや(コーディネーター)
    • 雑誌名

      『日本国際文化学会年俸2013』

      巻: 第11巻 ページ: 1-33

  • [雑誌論文] 「グローバル化時代の人の移動とアイデンティティ:若年層に着目して」2013

    • 著者名/発表者名
      川村陶子・杉村美紀・藤田結子・重非花・白石さや
    • 雑誌名

      『日本国際文化学会年俸2013』

      巻: 第11巻 ページ: 34-114

  • [雑誌論文] 「私はここに属さない:グローバル化の時代の若者文化を考える」2012

    • 著者名/発表者名
      白石さや
    • 雑誌名

      『アジア太平洋研究』

      巻: 第37巻 ページ: 31-46

  • [学会発表] 特別シンポジウム「災害と言葉、そして言葉と災害」

    • 著者名/発表者名
      東浩紀・平野啓一郎・星加良司(以上はパネリスト)・川村湊(モデレーター)・白石さや
    • 学会等名
      日本国際文化学会・国際文化会館・東京大学大学院附属バリアフリー教育開発研究センター等共催
    • 発表場所
      国際文化会館(東京、千代田区)
  • [学会発表] 鍋島ルネサンスプロジェクト・教育神秘ジウム『文化創世の潮流と展望」

    • 著者名/発表者名
      白石さや (学会会長の基調講演)
    • 学会等名
      日本国際文化学会・佐賀大学鍋島ルネサンス構想運営委員会共催
    • 発表場所
      佐賀大学(佐賀)
    • 招待講演
  • [学会発表] 「アチェ語の教科書を読む:エスニック・アイデンティティの構築」

    • 著者名/発表者名
      白石さや
    • 学会等名
      東京大学ホームカミングディ講演会・教育学研究科
    • 発表場所
      東京大学教育学部棟(東京、文京区)
    • 招待講演
  • [図書] グローバル化した日本のマンガとアニメ2013

    • 著者名/発表者名
      白石さや (単著)
    • 総ページ数
      359
    • 出版者
      学術出版会

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公開日: 2014-07-24  

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