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2012 年度 実施状況報告書

〈放蕩息子〉の寓話と北ヨーロッパ商業都市の変容 ―中世から近世へ―

研究課題

研究課題/領域番号 24617008
研究種目

基盤研究(C)

研究機関名古屋大学

研究代表者

前野 みち子  名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (40157152)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2017-03-31
キーワード放蕩息子 / 北ヨーロッパ / ルクスリア / 中世娼婦文化 / キリスト教モラル / 中世商業都市
研究概要

本研究は、西欧の文学、歴史、視覚芸術、工芸、音楽など多様な芸術分野に繰り返し登場する〈放蕩息子〉の寓話(新約ルカ15)に注目し、とりわけ中世から近世にかけての北ヨーロッパ地域(独、仏、ネーデルラント、英)で、都市の商業的興隆・繁栄をもたらした市民精神と宮廷との競争関係や、本来的に商業に批判的であったキリスト教との葛藤によって、この寓話が多様な解釈を生みつつ活用・転用されていったプロセスを、13~16世紀の奢侈文化の様態とモラルの関係、都市の社会構造と市民的心性の変容の分析によって通観し、考察することを目的としている。
平成24年度の研究実施計画に沿って、13~14世紀前半(ペスト流行以前)の同モチーフを扱うフランス・ゴシック建築のステンドグラス、演劇、工芸品などを収集・整理し、ここに見られる物語素を原典ルカの寓話と比較して、その構造分析を進めた。その結果として、1)原典ルカの寓話ではわずか一文で語られる「財産の蕩尽」にこの時代の関心と想像力が集中していること、2)その描写が娼館への受け入れ、種々の遊興、娼館からの追放などの定型的諸場面へと分節化され、細部増殖していること、3)このステレオタイプ化には10~11世紀に広く流布した挿絵入り『プシコマキア』写本のルクスリア像との関連が見られること、また、4)このような娼婦に代表される女性像は、ルクスリアをもっぱら〈淫欲〉と解釈する中世的伝統につながったと思われること、さらに、5)中世に散文として伝わっていた古代ローマ喜劇やその他ローマ的伝統における典型的娼館・娼婦像からの影響も併せて考える必要がありそうなこと、などが明らかになった。
また、本研究の基盤となる12世紀までの美徳と悪徳をめぐるキリスト教モラルについて、13世紀的展開を念頭において考察する論文を執筆した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

今年度は公務に追われたため、作業がしばしば中断した。13~14世紀前半の資料収集・整理についてはほぼ予定通りこなし、それを基に〈放蕩息子〉の物語素を細かく考察して、ほぼ予想していた成果を確認することができた。そのほかに、この寓話の中世的特徴については、古代ローマ喜劇的な伝統との連続・不連続の問題を併せて考えるべきであるとの認識を得た点は、一つの収穫であった。しかし、〈放蕩息子〉の寓話がなぜ13世紀になって流行したのかについて、商業都市の興隆とそこに生まれた都市文化との関連を考察するには至らなかった。

今後の研究の推進方策

今年度の計画において「やや遅れた」部分については、この年度末で多忙な公務から解放されるため、次年度の実施計画に組み込んで達成可能と考える。

次年度の研究費の使用計画

次年度は、申請当初に予定していた計画のみならず、今年度は考察が及ばなかった〈放蕩息子〉の寓話と中世商業都市の興隆との関連についても、北フランス都市のアラスとフランドル都市/アルザス都市圏を実見し、現地での資料収集を行って分析・検討する予定である。したがって、次年度使用額はその旅費の補填及び現地資料収集に充てたい。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2013

すべて 雑誌論文 (1件)

  • [雑誌論文] 美徳と悪徳の闘い―中世キリスト教モラルの図像学的研究(1)―2013

    • 著者名/発表者名
      前野 みち子
    • 雑誌名

      名古屋大学大学院国際言語文化研究科 言語文化論集

      巻: 34-2 ページ: p.21-42

    • DOI

      PDF

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公開日: 2014-07-24  

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