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2013 年度 実施状況報告書

〈放蕩息子〉の寓話と北ヨーロッパ商業都市の変容 ―中世から近世へ―

研究課題

研究課題/領域番号 24617008
研究機関名古屋大学

研究代表者

前野 みち子  名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (40157152)

キーワード放蕩息子 / ステンドグラス / 中世社会経済史 / 中世市民演劇 / 北ヨーロッパ / 奢侈(ルクスリア) / 貪欲(アウァリツィア)
研究概要

平成25年度は、13世紀の北ヨーロッパにおいて、〈放蕩息子の寓話〉のモチーフを扱った代表的なステンドグラスのある二つの司教座都市シャルトルとブールジュの大聖堂を実見し、またこのモチーフを演劇として扱う作品『アラスのクルトワ』の舞台となったアラス市や、13世紀において急成長するドイツの司教座都市ストラスブールを訪ねて、12~13世紀の北ヨーロッパ諸都市の繁栄に関する資料を収集した。
これらの資料、及び関連する中世の社会経済史の成果、キリスト教組織の変容と都市民の関係や村と都市の関係などを考察する歴史研究の成果を〈放蕩息子〉の寓話の諸要素と照らし合わせることにより、この時代にこの寓話が人々の注目を集めるようになった背景が次第に明らかになった。ステンドグラスでは放蕩息子が宮廷風を装う娼館で歓迎され財産を蕩尽する姿が描かれ、広場の演劇ではより庶民的な居酒屋(宿屋を兼ねる)が舞台となっており、ここから上等のワイン、豪華な料理、着飾った女たちが、都市の贅沢を代表するイメージとして定着し始めていることが分かる。さらに、この寓話の本来の意図は悔悟する放蕩息子の祝福であるにもかかわらず、ステンドグラスと演劇においてはむしろ世俗的な出来事のディテールが増殖している。このような寓話の焦点の移動と世俗化には、当時の現実、即ち、宗教的モラルをめぐってではなく、経済的利害をめぐって、教会対都市民(居酒屋の主人及びワイン商人)の対立関係が表面化する社会状況が大きく関与していたことが窺われ、これについては、今後の論文にまとめたいと考えている。
25年度は、このような13世紀の状況を生み出した前段階として、12世紀末にアルザスの女子修道院で成立した教導書『歓喜の庭』の挿絵に見られる〈贅沢〉と〈貪欲〉の擬人像について、貨幣に支配され始めた教会組織と都市の状況とを絡めて分析した論文を発表した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

昨年度(24年度)の遅れを回復しきれなかっただけでなく、本研究を進めるうちに、当初設定していた「商業行為とキリスト教モラルの対立」という一般的図式が、これまでの中世社会経済史の研究成果を踏まえるならば、疑わしく思われるようになった。そのため25年度に進める予定であった、この一般的図式にもとづく〈放蕩息子の寓話〉と民衆的小話との比較作業を年度途中で中止し、新たに有意義な視座を確立する必要があった。

今後の研究の推進方策

筆者は上述した理由により、この寓話が頻繁に取り上げられた中世後期の、教会制度も含めた社会経済史的背景の重要性を認識し、25年度の半ば過ぎから新たな視座に立った作業を進めてきている。25年度後半から執筆を始め、年度末に発表した論文は、概ね、この方針転換後の視座からの分析をベースにしている。したがって、26年度以降の研究計画も大幅に変更し、当初予定していた本研究の「中世から近世へ」というタイムスパンを短縮して、13~14世紀を中心に、北ヨーロッパ都市経済の変容とこの寓話とのより緊密な関係を探ることにしたい。

次年度の研究費の使用計画

わずかな端数額であったため、次年度に繰り入れることを考えた。
26年度受領額に繰り入れる。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2014

すべて 雑誌論文 (1件)

  • [雑誌論文] 〈快楽と貪欲〉―『歓喜の庭』の細密画から読む中世都市社会―2014

    • 著者名/発表者名
      前野みち子
    • 雑誌名

      名古屋大学大学院国際言語文化研究科 言語文化論集

      巻: 35 ページ: 13-38

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公開日: 2015-05-28  

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