研究課題/領域番号 |
24617008
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
前野 みち子 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 名誉教授 (40157152)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 『アラスのクルトワ』 / 放蕩息子の寓話 / 居酒屋 / ルクスリア / リュクシュール / 十三世紀商業都市 / 都市民と農民 / 農民の貨幣使用 |
研究実績の概要 |
28年度は、本研究課題の遂行において既に25年度後半に自覚されていた研究計画の問題点を修正し、社会経済史的視点を踏まえて中世北ヨーロッパの商業都市文化(文学及び図像)を分析し直すという作業を継続して行い、その成果の一部をようやく論文「中世文学のなかの居酒屋と放蕩息子―クリシェか現実か―」として完成することができた(29年9月に刊行予定)。ここでは、北フランスのアラスで生まれた世俗劇『アラスのクルトワ』を中心に据えて、まず先行する『聖ニコラ劇』との比較を行い、十三世紀アラスの世俗劇の主な舞台となる居酒屋という場所(トポス)が、1.当時の都市民たちの細かい金銭勘定つまり商業行為の場として代表・表象されていること、2.このイメージは既にラテン語の居酒屋(タベルナ)に淵源をもつものであること、を明らかにした。次に、『アラスのクルトワ』に新たに加わる都市民と農民の対立図式について考察し、十二世紀後半から顕著になる都市の人口増加とブルジョワ階級の台頭をめぐる社会経済史研究の成果を援用しつつ、都市で貨幣を使用する農民という新現象に対する都市民の複雑な心理を、先行研究が指摘するような宮廷に対するブルジョワの劣等感を裏返した農民への蔑視と一義的に解釈するのではなく、都市庶民と農民の関係性をも含めて総合的な解釈を試みた。最後に、この世俗劇に新たに加わった重要なモチーフ、つまりキリスト教モラルと緊密に関わる色欲(リュクシュール)のテーマについても、同時代のステンドグラス図像や中世写本『プシコマキア』のルクスリアの挿絵の変遷と比較対照しながら考察し、十三世紀の都市民と農民の成金現象と放蕩(色欲による財産蕩尽)の戒めの関連を分析した。この論文では紙幅の関係から以上に述べた諸点を十全に詳述するには至らなかったが、今後はドイツ中世とも比較しつつ、ここで得た知見を更に発展させて最終年度報告としたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
26年度末に退職し、健康を害しただけでなく、大テーマに沿って持続的に論文を発表していく場(紀要等)を全く失ったため、研究成果を逐次論文にまとめることに大きな支障を感じていた。今年度はたまたま論文掲載誌を提供されたことにより、成果の一部を発表する機会を得た。この論文では自身の関心にふさわしい比較文化学的方法を模索しつつ、中世盛期の文学テキストとそれを生み出した社会の関係を分析するに当たっては、社会経済史学の成果を多角的に援用することがかなり有効であることを示すことができたと考えている。幸い、29年度以降は再び紀要による発表が可能になったので、これまでの研究で得た知見やヒントを同様の手法でまとめ、遅れを回復したい。
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今後の研究の推進方策 |
29年度の本課題についての研究は、諸般の事情から当初計画した研究期間内に予定した成果を上げ得なかったため、一年の延長を願い出て許可されたものである。したがって、上欄の「現在までの進捗状況」に記述したとおり、今年度の成果を継承するかたちで、さらなる論文執筆に励みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
近年数多くの中世関係資料(写本挿絵、ステンドグラス図像及び関連研究書など)をインターネット上で公開する流れが加速し、現地に出かけてカメラに収めたり、現地で資料を実見する必要性がかなり減ったことにより、研究計画書で当初予定していた海外出張旅費の支出が非常に少なくて済んだ。
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次年度使用額の使用計画 |
上述した理由により、29年度も海外出張については今のところ予定していない。ただし、今年度の研究のために必要となる可能性がある写本挿絵図像などについては、場合によって現地での実見と資料入手を行うかもしれない。また、現地から電子データを取り寄せる場合、その費用及び著作権料の支払いにも使用したい。 さらに、文学テキストの新しい校訂本の入手、文学及び図像に関する研究書、中世の社会経済史及び中世史一般に関する研究書は、これまでどおり必要に応じて入手する。今年度は最終年度に当たるので、新たな資料収集、収集した資料データ及び自身で作成したメモなどを整理することも必要である。したがって、謝金としても支出したい。
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