本研究は途中で研究方法を大きく変更し、十三世紀から俄に注目された〈放蕩息子〉の寓話に関する文学・図像研究に社会経済史的視点を導入した。この変更のために論文としての成果は極めて乏しいが、得られた知見は大きく、今後この方向での研究の展開に意欲を持っている。成果は以下の通り。1)この時代の〈放蕩息子〉の寓話への注目の背景には富裕農民層の出現という社会現象が存在した。2)聖界と都市民はこの現象にそれぞれ異なる立場から関心を寄せた。3)十三世紀の文学・図像における貨幣・交換表象の頻出、都市民の登場、農民への注目と牽制は、それまで徐々に揺らぎつつあった封建的経済体制の構造転換を映し出すものである。
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