研究課題/領域番号 |
24617015
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研究機関 | 東京国際大学 |
研究代表者 |
金城 ふみ子 東京国際大学, 経済学部, 教授 (50275799)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 早川三代治 / 有島武郎 / 農地解放 / 地主 / 北海道 / 生存権 / 欧文脈 / テキスト分析 |
研究実績の概要 |
明治末期から大正期にかけては欧米の急進的社会主義が日本社会と文化に直接影響を与え始めた時期である。その大正文化の形成期に活躍した北海道の地主でもあった作家有島武郎と、有島が北海道帝国大学予科で教えた学生【文学の弟子】で小樽の地主の長男であり、後に経済学者となるが文学作品も書いた早川三代治に焦点を絞って、両者の日本語を比較分析した。 札幌農学校出身の有島と、その後身である北海道帝国大学【現北海道大学】出身の早川は、ともに農業経済学を専攻し、卒業後は長期に亘り欧米に私費留学をしている。両者は、札幌農学校の疑似西洋社会という同じ教育環境や伝統、留学先での本物の西洋社会を経験して育った点や地主であったことが共通している。 これらのことが彼らの文章【散文】にどのような影響を与えたのかを検討した。有島は数度の著作集・全集等があり資料の入手は比較的容易であるが、早川は未発表の作品が多いだけでなく、作品の多くは第二次世界大戦中に発表されたもので、一部は国会図書館のデジタルライブラリーにおいてpdfで読むことが出来るが、現物の入手は容易ではない。 幸い、早川の四男の知遇を得て、旧早川家に保存の資料を閲覧解析することができた。その結果、これまでに小樽商科大学に寄贈されていない資料に彼の創作資料・未定稿などが大量にあり、その全容を明らかにすることができた。特に政治機構の変動をもっとも端的に示している北海道の地主制の崩壊と早川のたどった経歴や、ロシア革命の影響を受けた有島の農地解放については必ずしも全面的に肯定してはいないことなどを彼の小説や未発表の作品原稿を通じて明らかにすることができた。さらに彼の日本の社会科学者のなかで数少ない非マルクス経済学者としての軌跡とそれが彼の日本語へ及ぼした影響を検討することができた。成果は、数回の研究会等での口頭報告と機関紙・所属大学の紀要等への発表を含んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①小樽商科大学での早川三代治の遺した資料調査が順調に進んでいる。 ②文学作品のうち、これまで保留にしていた戯曲類を読みとおすことができた。 ③研究会での口頭発表や論文の査読者からのコメントを得て、研究成果の精度が上がった。 ④分野別の表現の計量的言語分析が若干遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
①早川三代治の経済学者、社会学者としての面を検討し、これらの分野での著作を、文学作品と比較する。 ②早川の経済学者としての研究の総決算である博士論文を検討し、早川の、日本の所得分布の研究分野での位置づけを行う。 ③早川の著作の分野別特徴を検討する。 ④早川三代治と有島武郎を多角的に比較し、異同を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
抜き刷り購入代金の金額が判らなかったため、購入予定だった書籍代を保留にしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
当初購入予定であった書籍類を購入する。
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