本研究の目的は、明治以降の社会文化と政治機構変動の日本語への影響について、社会科学的分析における文章表現への西欧文化西欧語の影響を計量解析の手法を含めて見ることにある。 これらの分野による表現差の考察を、戦前戦後に亘って活動し、社会科学的な分析を含む文学的作品及び社会科学分野の文章の双方を執筆した、経済学者にして文学者でもある早川三代治を事例研究的に取り上げて行ってきた。昨年度までの研究は、文学者としての側面の検討を中心に、主に北海道の開拓村や農村についての文学作品について、記述内容や時代背景および社会的背景などの分析を行ってきた。 最終年度の今年度は、早川の経済学者としての側面を中心に考察を行った。早川のライフ・ワークとなった所得・資産分布研究などの論文がどのような経緯を経て出来たのかを、中学校時代まで遡り、小樽商科大学附属図書館早川文庫の資料などを使い、実証的に追跡を試みた。出身地の小樽の、寒村から商港都市への発展、その小樽に明治初頭に新潟から渡ってきた祖父が商人地主に階層移動した早川家の長男として、その財力を背景に豊かな教育を得て、北海道帝国大学農学部、ボン大学への留学を経て母校北大の講師となり、所得・資産分布の研究を始めたことを、経済史的な観点からの研究方法の考察や、札幌農学校の農業経済学の伝統などの視点から考察を行った。 併せて早川の社会科学的な文章と文学作品の文章に見られる西欧語の影響についての計量言語学的検討や、師の有島武郎の文章についての比較考察を行った。 今後の研究計画としては、早川が「所得格差」「差別問題」を、文学と社会科学という二つの異なった分野で行った、内面的な繋がりを考察すること、換言すると早川の文学活動と所得格差研究同源という仮説の検証を行うこと、さらに、早川の二人の文学の師である有島武郎と島崎藤村の影響について考察することを考えている。
|