研究最終年度の今年度は、先立つ二年間の研究調査および文献収集、読み込みなどに引き続き、研究成果を学術的な場で、または一般的な公衆に向けて発表した。 本研究で得られた知見について概説すると、まずノーベル平和賞が成立した背景に、19世紀における近代ヨーロッパの民主主義、民族主義の隆盛が存在し、時代の混乱と新しい価値観への希求が「平和」という概念を醸成したことがあった。次に20世紀初頭の第一次世界大戦の前後、第二次世界大戦前後、さらに冷戦の、三つの「戦争」の時期を挟んで、ノーベル平和賞の在り方や方向性に顕著な変化が見られたということである。さらに、冷戦期から欧米を主軸とした国際政治の在り方に準じて、時代の変化に合わせてノーベル平和賞がその「平和広報」の役割を戦略的、主体的に果たしてきたことである。本研究の最大の成果は、とりわけ冷戦期の核兵器拡散の脅威の中で平和賞の決定を左右したオーセ・リオネスノーベル委員会委員長の、国際政治の在り方を見据えた授賞決定の理念と戦略を未発見の公文書を踏まえ、具体的に実証したことである。加えて、ノーベル平和賞は今日のノルウェーの国際社会における「平和国家」としての評価を堅持するため、広報外交的な役割を果たしてきたという知見も得た。 三年間の研究では、計画時よりもさらに歴史的、国際政治的な資料・文献の調査や考察が必要となった。本テーマの先行研究が少ない分野での研究であるため、その進展上での思いがけない発見や知見を得ることもあり、その分、その一つ一つの考察、研究テーマ上にどのように位置づけるかの検討など、申請時の展望からは臨めなかったことが多分にあった。そのため、3年間の時限では十二分な成果発表が出来ていないと感じており、引き続き本テーマから発展させて研究(「小国の広報外交の戦略」としてノルウェーおよびいくつかの国や地域の研究)を行う所存である。
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