最終年度となる本年は、学術雑誌への投稿 (石井、ブンマーク [研究協力者]) 、学術雑誌への投稿準備(サティアン [研究協力者])、書籍への掲載原稿準備(石井)および研究紀要での出版(クラナローンと石井の共著)が行われた。投稿については、当初特集号を組むことを予定していたが、本年半ばまでに全員の原稿が出揃わなかったため、別個の論文として投稿することになった。それぞれの原稿が現在レフリーの審査結果を待っている途中であり、次年度中には当初目指していた国際的な学術雑誌に掲載されることを期待している。万が一これが不採用となった場合には、いずれも修正のうえ別の学術誌への再投稿を行い、本研究に基づく研究成果が形となることが見込まれている。 石井については、タイ南部国境地帯の町ダン・ノークとベートンおよびマレーシア北部のペナンにおいて、観光産業に従事するタイ北部山地民系の出稼ぎ者に関して、「タイ人」イメージの戦略的利用と移住ネットワークの重層性に関する論文を執筆した。またブンマークに関しては、クアラルンプールなどマレーシア諸都市において、ハラール・タイ料理店を経営するタイ南部出身のタイ系イスラム教徒たちについて、移民ネットワークの構造と働きについて分析した。また同時に、彼らがタイにいる場合と、マレーシアにいる場合とで、どのように「ムスリムらしさ」と「タイ人らしさ」を戦略的に使い分けているかを分析する論文を執筆・投稿した。またクラナローンに関しては、ランカウイの魚介加工工場で働くムスリム系タイ女性たちに関して、なぜ過去30年にわたってその移民の流れが続くのかを分析している。 こうした一連の論文は、タイ少数民族の国境を超えた移民/ビジネス・ネットワークと、そこでエスニシティがどのように使い分けられているかの生存戦略を浮き彫りにするのに関して、いくらかの貢献となるのではないかと期待される。
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