研究課題/領域番号 |
24617022
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
森 貴史 関西大学, 文学部, 教授 (10318743)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 人類学 / 博物学 / 人種論 / 啓蒙主義 / 比較解剖学 |
研究概要 |
ザムエル・トーマス・ゼメリング、ヨハン・フリードリヒ・ブルーメンバッハ、ペトルス・カンパー、ゲオルク・フォルスターといった18世紀の解剖学者や人類学者による初期文化人類学の言説を比較検討することによって、これらがいかに相互作用し、「差別的」人種論の萌芽をなしたかを分析するのが、本研究課題であるが、今年度はとりわけ、ゲッティンゲン大学医学部教授ブルーメンバッハ(1752-1840)を中心に、形質人類学、自然人類学の創始者といわれるイデオロギーの輪郭を把握するために、その文献史料の収集をその精読を集中しておこなった。 夏季休暇期間には、18世紀に自然科学で重要な役割を果たしたとされる諸都市での施設を現地調査したが、なかでも、ゲッティンゲン大学での大学創立275周年記念展Dinge des Wissens. Die Sammlung, Museen und Gaerten der Universitaet Goettingenを現地でみることができたのは、非常に有意義であった。というのも、ゲッティンゲン大学所蔵のブルーメンバッハ収集による頭蓋骨コレクションの一部収集品をじっさいに観察できたことと、これをめぐる現代の視点からの研究状況についても、資料を収集できたからである。 また、ブルーメンバッハが在籍していた大学であるために、ゲッティンゲン大学に残されたかれ自身による文献史料と、関連する資料および情報についても良質な状態で収蔵されており、現地の大学で多数獲得することができたのも、きわめて有益であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブルーメンバッハはゲッティンゲン大学医学部教授で解剖学者であったために、当初、そのテクストはもっとも難解で、文献の内容を理解するには、ある程度は専門的知識が不可欠に思われた。しかし、実際に読んでみると、それほど難解ではなかった。というのも、かれのテクストもまた、18世紀後半の博物学の領域と重複する部分が多く、また現代の医学ほどには精密かつ特殊な知識を必要としていないことがわかった。 もちろん、理解が難しい部分がまったくないわけではないが、これまでの既知の知識や能力でじゅうぶんに内容を把握できるものである。すなわち、ゼメリング、カンパー、フォルスターの文献を読むのと同程度の専門知識で、ブルーメンバッハの解剖学や人類学のテクストを読めることもわかったことは、かなりの収穫であった。 それゆえ、前年度の研究計画に齟齬が生じることもなく、少しずつであるが、ブルーメンバッハのテクストとイデオロギーの把握しつつも、ほかの3人の人類学者や解剖学者との比較分析を、ほぼ予定通りに進めることができたと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
この年度には、前年度に収集した文献・図版資料をさらに読み進めながら、いよいよそれぞれの人類学理論と関連させて、テクストごとの分析をおこなう。前年度と同様に、これまでに公表してきた研究成果にも再検討を加えながら、可能なかぎり最新の資料を盛り込むことで、内容および分量ともにボリュームアップを図っていく。 今年度の夏季休暇のおりには、分析の過程で必要となってきた文献・図版資料の収集をおもにゲッティンゲンでおこないながら、その場合には、インターネットのウェブサイトを用いて、ドイツ語圏の大学ですでに電子化されている資料などの事前調査を前提として、効率よく資料収集できるように心がけたい。 ならびに、ゲッティンゲンでは収集できない文献・図版資料を、ロンドンのBritish MuseumやBritish Liblary、ヴォルフェンビュッテルのHerzog August Bibliothekで収集することも、視野に入れておく。くわえて、必要に応じて、資料の整理や図版の電子データ化といった作業も平行しておこなうことを考慮しておく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
現在、入手可能な図書や文献については、消耗品費をあてて購入する。また、研究を遂行する上で随時、必要となる文具やコンピューター関連の消耗品の購入費用も想定している。 国内では購入や複写の取り寄せができないものについては、直接、国外の図書館に足を運んで、資料を自分の目で調査し、複写を依頼するために必要であるし、現地での施設調査もやはり不可欠であるために、外国旅費を計上している。 国内外の図書館から文献の複写を取り寄せるほか、国外での資料収集の際には、18世紀の1次資料は自分でコピーをとることが禁じられていることも非常に多く、所蔵図書館に複写を依頼しなければならない。その際、コピー、マイクロフィルムの作成とそのプリント、スキャンなどの作業には、セルフコピーの5~10倍程度の料金が求められるほか、作業に時間がかかるため、複写された資料を後日、日本へ郵送してもらう費用も必要となる。くわえて、これらの資料を効率よく利用するために製本費用も不可避であるという理由から、相応の複写費、資料郵送費、資料製本費も計上している。 ブルーメンバッハの著作や資料を収集するにあたり、高価なリプリント版や新編集版の書籍購入を予定していたが、近年、ドイツの図書館によるデジタル化とWEB公開が進んでおり、該当する著作や資料のデジタル版が発見できたために、印刷費と製本費のみの使用でこと足りたために、2012年度研究費の繰越金(199,363円)が生じたことを付記しておく。
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