本研究は,住宅価格形成における時間効果,年齢効果および世代効果の分離手法の開発を試みた。住宅の取引時点,建築後年数および竣工時点の間には,取引年次 = 建築後年数 + 竣工年次,なる関係が成立するため,回帰モデルでは完全な線形関係が生じてしまう。したがって,多重共線性によって三つの効果(年齢効果,時間効果および世代効果)を識別することが不可能になる。 唐渡 (2014) は世代効果を合理的に除去することができるリピートセールス法に基づく価格指数計測方法を提案した。リピートセールス法はセレクションバイアスが生じている可能性があるため,この論文ではこれを修正した推定方法を提案した。先行研究では,セレクション関数とリピートセールス回帰モデルとの間の共分散が通時的に一定であると仮定しているが,住宅の売り手が直面する経済状況は年々刻々と変化していることを考慮すると,実際には誤差構造が変化している可能性があるため,誤差項におけるランダム・ウォークを仮定し,取引期間を長期化すればするほど,誤差分散が拡大するケースでのセレクションの除去を行った。 さらに,ランダム・ウォークではなく系列相関および分散不均一を持つ誤差構造のもとでのセレクションの除去を行った。先行研究におけるRS法の分散不均一特定化手法を利用して,誤差項がランダム・ウォークであるのかどうかを検証するとともにセレクションの除去を行った。この場合でもセレクションバイアスを制御した場合のリピートセールス回帰モデルとセレクション関数の相関は有意に負であり,2回取引された物件の価格指数は負のバイアスを持つ可能性があることを示した。したがって,リピートセールス法は,世代効果を除去する有用な手段ではあるものの,その価格指数には住宅市場の母集団に比べて負のバイアスが生じている可能性があるといえる。
|