研究課題/領域番号 |
24618013
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
薬袋 奈美子 日本女子大学, 家政学部, 准教授 (60359718)
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研究分担者 |
石川 永子 千葉大学, キャンパスデザイン整備企画室, 准教授 (00551235)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 先人の知恵 / 土地利用 / 集落形態 / 歴史 / 江戸時代 / 豊間地区 / 男木島 / 女川町 |
研究実績の概要 |
日本の伝統的集落の居住形態による減災の工夫を蓄積し、シティズンシップ力もつけられる防災教育手法の開発を目的とした研究である。 昨年度に引き続き、東日本大震災被災地およびその他地域での、小規模集落での被災状況と、集落の形態・歴史について調査を行い、学会論文などに投稿し、成果を公表した。 昨年度から引き続いて行った女川町の調査では、北部にある集落全体を概観するために、昨年度までに得られた知見をもとに、北部全集落について、現地踏査およびヒアリング調査を行った。漁についての地先権と海辺の整備についての在り方の関係、子供たちの通学する小学校と集落ごとの交流なども踏まえた、空間利用と災害への備えについての知見を得ることができた。 また福島県の被災地集落の一つ豊間地区の居住地区の歴史的な経緯を生業との関係で確認をしたうえで、東日本大震災の被災との関連を確かめることができた。江戸時代中期ごろまでは、今回の被災でも被害の小さかった部分に住んでいたものの、経済的な利益を求め江戸時代後期から災害リスクの高い場所に集落が形成されたことがわかった。 一方で、近年突風などの風による被害が大きいにもかかわらず、今回の研究では、風による被災地が上がっていなかったために、戦後大きな被害を受けたという記録はないものの、伝統的に風に備えたつくりをしていると言われる、瀬戸内海の男木島・女木島の調査も行った。女木島のオーテは形態のユニークさで知られるが、同時に背後集落が風を避ける住棟配置をしていることなどが確認できた。 小学校の社会科の学習を通した、シティズンシップ教育の検討を開始した。小学校の教科書には前回の改定以降、災害に関連した記述が一段と増している。しかし、具体的に自分の地域の地形や歴史との関係、先祖の”賢い”土地利用形態との関係にまでは、十分に掘り下げられていないことが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
被災集落の調査は、複数のタイプのものについて実現することができ、まだ追加調査を必要とする集落もあるものの、調査に区切りをつけることのできた集落もあり、少し遅れ気味ではあるものの、進んでいる。 しかし、本年度は、被災集落での調査を行うばかりでなく、新たな住教育教材開発を積極的に進める予定であったが、一教材を検討したにとどまった。この教材は、小学校社会科4年生で学習する等高線について、5年生になってから再度思い出しながら自分の地域を観察するものである。5年生の学習の最後に、地理学習のまとめのような位置づけで、まちを維持・発展するための内容がある教科書を利用したが、短い時間で効果的な学習の機会を、シティズンシップ力をつけながら提供することは容易ではなく、試行錯誤をしている途中である。 教材に使用する図の作成については、最終的には等高線をベースとすることにした。国土地理院で管理をする情報を活用して、等高線の入った教材として適したスケールの地図をつくることについて、使用ソフトウエアに慣れていないこともあり、手間取ったことなどもその背景にある。また等高線以外の地域を理解するための図をいくつか作成し、確かめたが、等高線が他の情報も一緒に読み取ろうと思った場合には、一番わかりやすいことが確かめられた。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は最終年度であるので、最終的な到達目標である教育教材の開発及び検証・普及活動を行う予定である。 小中学校における教材開発を積極的に進め、使用してくださる小学校を開拓したり、その成果を検証することをめざす。シティズンシップ教育については、過去に別の研究である程度方法論などについての蓄積はあるものの、地理教育、防災教育と結び付け、かつ特定の児童・生徒が差別的な扱いを受けることのないような配慮も含めた教材開発の検討は、十分な熟慮が必要であると感じており、慎重に検討する。現場の小学校の先生方の意見も伺いながら、より適切な教材となるよう検討を重ねたい。 また、今回は古くからの居住形態を見ることのできる集落を教材対象として調査しているものの、大多数の児童・生徒は都市部や造成をしてつくられた住宅地に住んでいるという現状を踏まえて、どの程度臨場感を持ち、かつ自分たちの地域を振り返るきっかけとなる教材としたい。より安全な土地利用に誘導できる方策も併せて検討をし、教材開発に生かすこととする。 今回開発する予定の教材は、今後の地域を考える重要な市民の一人となることの自覚を促す内容とする予定である。良き市民が多くなることで、気候の変化に柔軟に対応のできる日本社会を築く一助としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
奄美大島および奥尻島という離島への現地調査をすることが日程の都合上できなかったために、2015年度前半でこれらの調査を実施する予定である。 また住教育の実践のための旅費も使用する段階にいたらなかったために残額が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
2014年度に実施できなかった調査を早急に実施するとともに、2015年度は、住教育検証を予算額の中で効率的に実施したいと考えている。
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