研究課題/領域番号 |
24618014
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研究機関 | 名古屋学院大学 |
研究代表者 |
上山 仁恵 名古屋学院大学, 経済学部, 准教授 (90295618)
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キーワード | 遺産動機 / 住宅資産 / 既存住宅 / 中古住宅 / 流動性 / 相続 / 日本 |
研究概要 |
本研究の目的は、日本における住宅資産(既存住宅)の流動性の低さに着目し、住宅の非流動性が遺産動機に与える影響を検証することである。これまで、数多くの論文により日本人の遺産動機に与える要因分析の結果が提示されているが、先行研究が個人の属性や親子関係に着目しているのに対し、本研究では、遺産動機が市場(具体的には既存住宅市場)にも影響されることを立証しようとするものである。また、多くの先行研究が、日本人の遺産動機に与える住宅資産の重要性を示唆しているものの、その理由を具体的なデータから示しているわけではない。日本人の遺産動機に住宅資産がどのようなメカニズムで影響を与えるのかを明らかにする点でも、本研究は先行研究と一線を画した位置付けとなっている。 以上の研究目標に対し、まず平成24年度では、日本人の遺産動機と住宅資産の流動性に対する主観的評価との関係が検証可能となるアンケート調査を実施した。そして、平成25年度には、調査から得られたデータの計量分析を行い、その結果、様々な個人の属性をコントロールした上でも、住宅資産の流動性に対する評価の違いが、遺産動機に対する考え方に影響していることが明らかになった。さらに、この影響のメカニズムを、簡単な理論モデルを用いて解明している。 これらの研究成果は平成25年度内に論文としてまとめ、年度内に計4回の学会、及び研究会で報告を行った(報告の場所は、国立社会保障・人口問題研究所主催研究会、NCU現代経済学研究会(主に名古屋市立大学出身者を構成メンバーとする研究会)、日本経済学会秋季大会、愛知県主催「居住施策に関する意見交換会」である)。 また、上記で報告を行った論文については、現在レフェリー誌『住宅土地経済』(公益財団法人日本住宅総合センター季刊誌)に投稿中であり、現在審査待ちである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、日本人の遺産動機を、日本の既存住宅市場の特徴と関連付けて分析を行うことである。そして、この目的を達成するために、1.理論的な枠組みからの検証(住宅資産の流動性が遺産動機に与えるメカニズムを理論モデルを用いて明らかにすること)、及び、2.実証的な枠組みからの検証(住宅資産の流動性が、実際、日本人の遺産動機に影響を与えているか否かの実証分析)、の大きく2つの目標を挙げ、さらに、2の実証分析については、日本(全国)を対象とした検証だけではなく、海外や地域にも目を向けた調査の実施も目標としていた。そして、これらの研究成果を、日本や海外での学会報告やレフェリー誌への投稿で周知することを推進方策に挙げていた。 以上の研究計画に対し、平成24年度には、本研究の目的が検証可能となるアンケート調査を実施し、全国を対象とした計量分析を行った。そして、平成25年度には、平成24年度に行った成果を論文としてまとめ、計4つの学会や研究会で報告を行った。以上で報告した論文は、現在、日本のレフェリー雑誌に投稿中(審査待ち)である。 また、地域分析についても、愛知県を対象とし、既存住宅市場が家計行動に与える影響を分析し、愛知県主催の研究会にて報告を行っている。 以上の研究実績を踏まえると、本研究の目的について、1の理論モデルの構築については完成し、2の実証分析についても、日本を対象とした全国・地域分析を実施し、その成果は学会や研究会を通じて十分周知されたと考えられる。 しかし、昨年度、予定していたよりも多くの報告機会が与えられたため、その準備に時間が費やされてしまい、海外に向けた研究成果の公表(海外雑誌への投稿や国際学会での発表)が未達成である。以上を総合し、現在までの達成度を「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究推進方策については、1.平成25年度までに得られた研究成果を論文としてまとめること、2.国土交通省が進めている既存住宅の家屋部分の評価見直し案に対する国民の意識調査を実施すること、の大きく2つの枠組みで推進していくことを考えている。 まず、1の論文の作成については、以下、3つの論文執筆を予定している。まず、(1)住宅の流動性が家計行動に与える影響分析を英語の論文としてまとめ、海外のレフェリー誌に投稿すること(これについては、国際学会への発表も含む)、そして、(2)日本人が何故住宅という形で子供に相続資産を残すのかについて実証した論文をまとめること、最後に、(3)平成25年度に実施したリバースモーゲージのアンケート調査の結果をまとめること、以上3つの論文執筆を予定している。 そして、これらの論文執筆を進めながら、同時に、現在国土交通省が促進している既存住宅の家屋の評価見直し案に対する国民の評価について、アンケート調査を実施したいと考えている。現在、国土交通省は、アベノミクス第3の矢「成長戦略」の中で既存住宅の流通促進策を提示し、これまでの既存住宅の家屋に対する一律減価の評価方法を見直し、適切な建物評価手法に関する指針の作成を進めている。 しかし、この国土交通省の取り組みに対し、多くの自治体は反対しており、また、個人に対するいくつかのヒアリングを通じても、家屋の見直しにより固定資産税が上昇するのではないか等、反対意見も多く聞かれる。このような現状を背景とし、既存住宅の家屋の評価見直し案に対する国民の是非、及び、その理由について調査を実施したい。 以上、平成26年度の研究推進方策としては、平成25年度までの研究成果を論文としてまとめる作業が中心となるが、特に、海外雑誌への投稿や国際学会での発表を優先して準備を進めていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度未使用額(次年度使用額)が29,233円発生した。その理由としては、リバースモーゲージに関する調査費用として100万円を想定していたが、実際の費用は96万6千円であり、想定していたより経費が少し抑えられたためである。 平成26年度、国土交通省による既存住宅の家屋部分の評価見直しに対する国民の意識調査を実施する予定であり、その調査費用の経費に組み込む予定である。
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