研究課題/領域番号 |
24618015
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
福島 茂 名城大学, 都市情報学部, 教授 (10251349)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アジア移行経済 / グローバル化 / 都市居住形態 / 住宅政策 / 土地制度 / 住宅市場 / 中国・北京 / ベトナム・ホーチミン |
研究実績の概要 |
本年度は、中国・北京市において居住形態アンケート調査を実施し、世代・社会階層からみた都市居住形態とその形成メカニズムを明らかにした。急速な社会経済発展と住宅市場化が進んだ中国では、異なる世代・階層はそれぞれ異なるタイミングで、また、異なる住宅配給チャンネンル、住宅市場セグメントにアクセスし、今日の居住形態を形成する。中国では1994年から住宅の商品化政策がとられ、1998年以降、北京市の住宅供給システムは配給から商品住宅へと転換。2005年以降は急激な住宅価格の高騰に直面する。今日の40代は配分住宅から商品住宅に移行する過渡期の世代であるが、住宅価格の高騰前に住宅市場にアクセスすることが可能であった。30代は住宅価格高騰の最中に住宅市場にアクセスした世代であり、世代内にも住宅格差の広がりがみられる。北京市の住宅価格は既に平均世帯年収の15~30倍にも上り、高騰後に住宅市場にアクセスする20代は親の支援がなければ住宅取得は難しい。 中国では社会主義計画経済制度のもとで、社会サービス制度とリンクした都市・農村戸籍制度がとられ、改革開放後もこれが続いてきた。今回の調査結果は北京市の戸籍の有無による住宅格差の大きさを明らかにしている。配給住宅を享受できた50代以降はもちろん、40代~20代でも同様なことがいえる。今日の30代・40代で北京戸籍を有するものは地方出身者であっても政府系・民間を問わず安定した企業等に就業し、住宅積立金制度などを活用して素早い住宅取得が可能であった。一方、北京に戸籍をもたないものは、所得の相対的な低さに加えて、配分住宅や経済性住宅へのアクセスを含めて社会サービスの享受に大きな制約を有し、住宅取得を難しくしてきた。このことが北京戸籍の有無による住宅格差を生むことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24・25年度はベトナム・ホーチミン市におけるグローバル経済化・移行経済化のもとでの都市居住の変動とその形成メカニズムについて明らかにした。平成26年度は、中国・北京市を対象にして、上述のように都市居住の変動とその形成メカニズムを明らかにした。平成26年度、ホーチミン市に関する研究成果は「Formalization of Housing Forms and Housing Developments in Ho Chi Minh City, A Fast Growing City in the Transitional Economy」をテーマに, 国際学会(9th Annual Conference of the International Academic Association for Planning Law and Property Rights,Volos-Greek, 25-27 Feb. 2015)にて口頭発表を行った。現在、ベトナム・ホーチミン市と中国・北京市の調査研究成果をとりまとめ、学術研究雑誌への投稿準備を進めている。 一方、平成25年4月から研究代表者が勤務校の副学長に就任したために、当初想定していた業務エフォート全体に対する本研究の比率をかなり下げざるを得ず、当初予定していたベトナム・ホーチミン市と中国・北京市の国際比較研究分析が遅れている。このため、研究期間を1年延長することにした。
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今後の研究の推進方策 |
中国・北京市とベトナム・ホーチミン市の居住形態とその形成メカニズムについて国際比較分析を行う。産業化の水準・社会経済構造・人口動態を居住形態の基底条件としつつ、各大都市の土地・住宅関連の制度・政策、住宅市場の差異が大都市圏の居住形態にどのような影響を及ぼしたかを比較分析によって明らかにする。この分析結果を踏まえて、東アジア移行経済諸国がグローバル化と移行経済プロセスのもとで、達成した都市居住形態の特質とその要因について検証し、その居住政策のあり方について検討する。 とりわけ、ベトナムと中国というアジア移行経済国の大都市居住形態の形成要因を理解する鍵となるのは、土地制度と住宅開発パターン、都市住宅開発におけるインフォーマル性の許容と漸進的改善の容易性、住宅金融の発展、社会主義計画経済制度のもとで発展してきた戸籍制度の運用の在り方などであることが、これまでの研究成果から明らかになっており、こうした観点も含めて、大都市居住形態の実態との形成メカニズムを比較分析する。 平成27年度は、本助成研究の最終年度であり、ベトナム・ホーチミン市、中国・北京市の研究成果、またその比較研究分析結果を最終研究成果報告書としてとりまとめる。開放経済型の経済政策をとることで産業化を促す移行経済諸国がどのような都市住宅政策をとるべきかを考える上で有用な知見を導出する。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度を1年延長したために、最終報告書作成費用を次年度に使用することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度繰越予算、112,956円は、最終報告書の簡易印刷製本費として使用する。
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