中国とベトナムは移行経済国であり、土地・住宅の市場化と民営化を推進してきた。しかし、両国の経済発展水準、都市行財政力、土地管理や戸籍制度管理の強度の違いから、それぞれの住宅開発パターンと居住形態は対照的なものになった。 北京では政府による宅地供給管理により、高層住宅団地が計画的に開発されてきた。政府・公営企業部門における優遇価格での住宅配分制度(~1998年)、公共住宅政策や住宅資金積立制度を通じて住宅取得が支援されてきた。ただし、北京におけるフォーマルな居住形態、高い持家率は北京戸籍層において特徴的であり、非北京戸籍層(とりわけ農村戸籍層)の大半は城中村の低質な民間賃貸住宅に住むことになった。戸籍制度が強く維持されてきた中国では、北京戸籍を取得できない社会経済階層は、年齢が高くなると大半は帰郷することになる。こうした「年齢・戸籍によるジェントリフィケーション」が、北京の居住形態・水準を嵩上げする効果を果たしている。 ホーチミンでは中国に比べて戸籍管理制度がゆるやかであり、ドイモイ政策のもと、同市への大規模な人口流入が続いた。転入層の多くは同市の戸籍を取得し、定住している。2000年代初頭まで、ホーチミン政府は土地管理を徹底できず、郊外の農地は非公式に宅地分譲され、インフォーマルな市街地形成を促した。一方で、これが低・中学歴層にもアフォーダブルな居住機会を提供し、住民の漸進的な住宅改善を可能とした。2000年以降、政府による土地利用権の正規化と地区インフラ整備により、フォーマル化が進んだ。ここに、移行経済における漸進的な居住発展モデルをみることができる。しかし、2000年代前半の土地・住宅価格の高騰と2004年以降のインフォーマルな宅地分譲の規制強化は、30代以下の住宅取得を困難化している。北京でも住宅価格の高騰が著しく、30代以下の住宅取得を難しくしている。
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