研究課題/領域番号 |
24619003
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
竹内 孝江 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (80201606)
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研究分担者 |
鈴木 孝仁 奈良女子大学, 古代学学術研究センター, 特任教授 (60144135)
紅 朋浩 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00222513)
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キーワード | フラグメンテーション理論 / 質量分析 / リン酸化ペプチド / On-Resonance CID / ab initio DFT計算 / RRKM理論計算 / ポテンシャルエネルギー超曲面 / セスキテルペン |
研究概要 |
新たに合成されたポリペプチドが機能を発揮するためには翻訳後修飾を受けることが多い。カビ代謝ペプチドにおいても、翻訳後修飾ペプチドとしてリン酸化ペプチドは重要である。本研究の目的は、リン酸化ペプチドのフラグメンテーション機構を理論的に解明し、汎用のフラグメンテーション理論を確立することである。平成25年度は、 (1)12個のアミノ酸からなるペプチド[TRDIYETDpYYRK]H+からのH3PO4脱離過程を検討した。フラグメンテーション反応のポテンシャルエネルギー曲面における反応始状態、中間体、遷移状態、生成物状態の平衡構造の振動解析を行い、統計理論であるRRKM-QET 理論を用いて可能なフラグメンテーション反応の速度定数を計算し、フラグメンテーション機構を解明した。計算はPM6及びB3LYP/6-31G(d)により行った。その結果、H3PO4脱離では、COOH基のHがリン酸化チロシンのOへ移動後、環状構造の遷移状態を経てH3PO4が脱離すると予想された。 (2) 真菌の代謝過程において胞子形成時にのみセスキテルペン類が生成していることを我々は報告した。リン酸化ペプチドだけでなく、セスキテルペン類の生合成過程は真菌の増殖機構の解明においても重要である。Aspergillus nidulansのゲノムに見つかるテルペン生成関連遺伝子10 個を対象にノックアウト株およびプロモータ交換株(発現誘導株)を作成し、それらの株の揮発性代謝物を質量分析によって解明した。A. nidulansのAN3277遺伝子の発現誘導株LO6191の揮発性代謝物質の内,GCの保持時間21.5分付近のピーク成分を購入のガスクロマトグラフ装置を用いて分取し、Bruker 750MHz NMR装置を用いてNMRスペクトル測定を行った結果、この化合物は環状のAristolocheneまたはその対掌体であると推定された。NMRスペクトルの構造決定にあたっては既存のNMRデータおよびab initio法によるNMRスペクトル理論予測値を参考にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画・方法に記載した(1)フラグメンテーション理論の構築については、従来法で課題となっている、翻訳後修飾されたリン酸化ペプチドのフラグメンテーションを理論的に解明できた。(2)カビ代謝物質の構造解析については、Aspergillus nidulansの増殖時に放出されるセスキテルペン生成に関連する遺伝子を発見し、質量分析およびNMRにより、そのセスキテルペン化合物の構造を決定できた。さらに、この構造解析のキーとなるNMRスペクトルを理論計算により推定できた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) RRKM-QET によって計算した各フラグメンテーション反応の速度定数から、フラグメンテーション機構を解析し、カビ代謝ペプチドを解析する際に利用できるフラグメンテーションの指標を導出する。実験条件で起こるフラグメンテーションを予測する理論を構築する。 (2) 平成25年度の研究においてA. nidulansは、代謝物質としてAristolocheneを生成することを明らかにした。平成26年度は、セスキテルペンの一つであるAristolocheneのマススペクトルのフラグメンテーション過程を理論計算により明らかにする。さらに、AristolocheneのLC/ESI CID MS/MS 測定を行い、構築したフラグメンテ―ション理論を検証する。
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