研究概要 |
生体分子のその場分析技術の開発はオミクス計測科学分野の重要な課題であるが,未知試料の同定に及ぶ手法の確立には至っていない.本研究では,様々な気相酸性度を持つ負の大気反応イオンの制御生成が可能な「精密コロナ放電」と質量分析を結合し,種々の有機化合物を各々の物性に応じて選択的にその場分析する“バイオモニタリングシステム”の構築を目的とし,平成24年度は以下の研究項目を遂行した. 1. 大気圧下での精密コロナ放電による反応イオンの発生制御と質量分析計の接続 2. 大気反応イオンと有機化合物の選択的反応に関する基礎研究 1では,平板電極上のオリフィスに対するニードル電極の角度およびコロナ直流電圧を可変とする「精密コロナ放電イオン源」を構築し,質量分析計に実装した.本装置では,大気成分(N2, O2, H2Oなど)をそのまま利用して,ニードル角度とコロナ電圧による電子の運動エネルギーの精密調整のみで,様々な気相酸性度を持つ負の大気反応イオンR-(NO3-, NO2-, HCO3-, O2- など)の生成制御を可能にした.さらに,マイクロセラミックヒーターを放電場近傍に設置することによって,アミノ酸等の低分子量の固体有機化合物を気化させ,大気反応イオンと試料分子の反応により生成した試料イオン(付加体イオン [M + R]-,脱プロトン化分子 [M - H]-)を質量分析することに成功した.2では,衝突誘起解離(ollision-induced dissociation; CID)法を用いて,種々の有機化合物Mと大気反応イオンR- の付加体イオン [M + R]- のフラグメントイオンを観測した. その結果,R- と [M - H]- のプロトン親和力によって説明される規則的なフラグメンテーション過程が見出され,未知試料の分子量の決定に有用であることが示唆された.
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