研究課題/領域番号 |
24619005
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
関本 奏子 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科(八景キャンパス), 助教 (40583399)
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キーワード | コロナ放電 / 質量分析 / 大気反応イオン |
研究概要 |
生体分子のその場分析技術の開発はオミクス計測科学分野の重要な課題であるが,未知試料の同定に及ぶ手法の確立には至っていない.本研究では,様々な気相酸性度を持つ負の大気反応イオンの制御生成が可能な「精密コロナ放電」と質量分析を結合し,種々の有機化合物を各々の物性に応じて選択的にその場分析する“バイオモニタリングシステム”の構築を目的とし,平成25年度は以下の研究項目を遂行した. 1. 大気反応イオンと有機化合物の選択的反応に関する基礎研究 2. “バイオモニタリングシステム”の実用化に向けた評価研究のための準備 1では,衝突誘起解離(collision-induced dissociation; CID)法を用いて,種々の有機化合物Mと大気反応イオンR- の付加体イオン [M + R]- のフラグメントイオンを観測した. その結果,R- と 試料の脱プロトン化分子 [M – H]- のプロトン親和力(PA)によって説明されるフラグメンテーション過程が見出された.すなわち,R- のPAが [M – H]- のPAより高い場合,R- によるプロトン引き抜き反応を伴う解離により,フラグメントイオンとして [M – H]- が生成する.一方 R- のPAが [M – H]- のPAより低い場合は,単純解離により,R- がフラグメントイオンとして生成する.この過程はMとR- がどのような組み合わせでも共通して観測され,未知試料の分子量の決定に有用であることが示唆された.また,水素脱離による酸化反応は,1つの炭素にアミノ基およびカルボキシル基の両方を有する有機物(a-アミノ酸等)に対して特異的に起こることが判明した.2では,来年度行うその場分析に対する植物サンプルとして,ラベンダーとペチュニアを選定し,香気成分の同定や代謝経路の研究に関する知見を調査した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した「研究実施計画」に従い,平成25年度に遂行すべき研究項目は達成された.すなわち,種々の有機物と負の大気反応イオンの付加体イオンのフラグメンテーション過程を調査したところ,未知試料の分子量の決定に有用な情報を得ることができた.その他,平成24年度の研究で見出された水素脱離による酸化反応が観測される条件が明らかとなった.また,その場分析に適した植物サンプルを選定し,それらから放出される香気成分の知見を収集したため,来年度に計画されている研究をスムーズに進めることができる.
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今後の研究の推進方策 |
交付申請書に記載した「研究実施計画」に従い,今年度は「“バイオモニタリングシステム”の実用化に向けた評価研究」を遂行する.昨年度選定した植物サンプル(ラベンダーおよびペチュニア)からは,香気成分として酢酸リナリルおよびイソオイゲノールが主に放出されることが知られている.まずはそれら試料の純品をスタンダードとして測定し,観測されるイオン種を調査する.その後,植物を様々な環境(昼夜間など)に置き,植物から放出される揮発性化合物のその場分析を試みる.具体的には,イオン源パラメーターのニードル角度とコロナ電圧を変化させながら,各種大気反応イオンと植物表面から揮発する化合物を反応させ,随時生成する試料イオンを質量分析していく.得られたマススペクトルを,上記スタンダードの測定で得られたスペクトルを基に解析し,植物のから放出される種々の揮発性有機化合物を同定する.
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