研究課題/領域番号 |
24619008
|
研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
山口 健太郎 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (50159208)
|
研究分担者 |
瀬高 渉 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 准教授 (60321775)
小原 一朗 (小原 一朗) 徳島文理大学, 薬学部, 助教 (60581775)
川幡 正俊 徳島文理大学, 薬学部, 助教 (00441593)
|
キーワード | 有機金属錯体 / ジャイロコマ / 光学特性 / 自己組織化 / 溶液構造 |
研究概要 |
本研究の主目的である,CSI-MSを用いた溶液構造解明に関し当初計画にそって実験を行った.すなわち今年度は有機金属錯体の構築を溶液中で確認する一連の研究を実施し,成果を得ている.これは,溶液中での錯体構造構築の経過をリアルタイムで検出するシステムの適用例として好適であり,実際,弱い結合に基づく自己組織化の原理解明に繋がるものである.具体的には,アダマンタンをリガンドとするコバルト錯体の形成が,溶媒の種類により変化する様子をCSI-MSを活用することにより確認出来た. 一方,分子ジャイロコマに関する一連の研究も並行して進展し,ナフタレンを回転子とするコマに関し,回転子に架橋したカゴの大きさの変化に伴って回転が束縛される様子を動的に解析することができた.すなわち,カゴを構成するメチレン鎖が14の場合,ナフタレン回転子は完全に固定され,16および18の場合,炭素数増大に伴って回転速度が増すことがわかった.このように非対称回転子のコマの挙動がはじめて明らかとなった. さらに,回転子として,電気ダイポールを有するチオフェンを用いた場合,実際に回転が可能あることを確認した他,結晶中でのチオフェンの方位に変化,すなわち秩序的あるいは無秩序遷移により結晶中の光学特性の多様性が観測された.このこは,この分子ジャイロコマがπ電子系の配向制御可能なある種の液晶として振るまい,新しい光学素子として利用する未知が開かれたと解釈できる.これら新分子系の溶液挙動の解析が次の目標となる. 本研究課題におけるもう一つの化合物としてツインボウル型シクロファンの解析を行った.特に電気的に中性あるいは電子豊富なゲスト分子を包摂できる新たなシクロファン誘導体を合成し,結晶状態でC60 フラーレンを包摂することを確認した.溶液質量分析を現在進めているところである.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は溶液質量分析を活用したオミクス解析に関するもので,広範囲にわたる新機能性分子を対象としている.当初の計画では,多岐に及ぶ生体分子への応用もめざしているが,現在のところ一連の基礎的な生態関連分子の解析に止まっている.しかし,他の興味ある機能性分子の挙動が明らかとなって来ている.例えば,新規金属錯体の溶液構造や分子ジャイロコマの動的構造解析,あるいは新規超分子ポリマーであるスピロボレートシクロファン類の解析を重点的に実施し,相応の成果をあげることができた.特にシクロファン類の興味ある溶液動態は,CSI-MSおよび関連質量分析により明らかにされつつある.これらのポリマーは分子量が増大し,もはや他の分析手法では構造解析が難しい.質量分析はこの種の化合物において威力を発揮すると考えられる.また,これらの分子種は生体高分子を模倣しているとも考えられるため,モデル化合物として当初の計画にある程度合致している.
|
今後の研究の推進方策 |
現在,溶液中での錯形成過程の追跡に関し方法論を確立しつつある.すなわち,多成分系有機金属錯体の溶液挙動をCSI-MSでとれることができ,その構造をX線解析により証明した.溶液中において離散集合を繰り返し安定な錯体を形成して行く過程を反応追跡システムに用いた技術で解析する.既に基礎実験を開始しており,この中で,移りゆく膨大なMSスペクトルの解析に関する問題点が浮上した.これを解決するため,MSスペクトルから可能な元素組成を瞬時に算出するコンピュータソフトウエアの開発に着手している.これが完成すれば,錯形成過程の過渡的構造を迅速に解析する手法とともに,これらの挙動解析が大いに進展すると考える. 分子ジャイロコマに関しては,カゴに閉じ込められた回転子をドラッグと見立てた一つのカプセル状化合物と考えたとき,その薬物送達への応用を視野に入れた検討を行う.体内適正部位に送達された薬物をリリースする仕組みや,その挙動をCSI-MSおよびNMR等の溶液解析法により明らかにしたい. スピロボレートシクロファン類に関しては,さらに大型の環状分子へと発展させ,溶液中でゲスト分子を包摂あるいは脱離する様子を観測する.現在までに,C60フラーレンの包摂に成功しているが,さらに,多段にわたり複合体を形成することにより長鎖の超分子ポリマーを構築し,その構造および物性を解析する.そしてこれを生体高分子の網羅的解析に応用する.
|
次年度の研究費の使用計画 |
CSI-MSによる反応解析システムを効率的に作動させるための反応溶液送液ポンプについて検討を行ったが,最適なデバイスの選定に時間を要した.その結果,当該デバイス等の導入に至らず,これに充てるはずの予算を次年度送りとした.また,生体高分子についての実験の順番が後回しになったため,関連試薬等の購入が年度内に行われなかった. 本年度は最終年度にあたるため,残っている実験に使用する試薬類,ガラス器具類等の消耗品費に充てる予定.前年度予定されていた反応解析システムに用いる器具類,および制御用部品,並びにコンピュータ関連消耗品も購入する予定.さらに研究成果の学会発表や論文発表関連経費も必要となる.
|