研究課題/領域番号 |
24619013
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
全 伸幸 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測フロンティア研究部門, 主任研究員 (20455439)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 超伝導検出器 / 超伝導ストリップ / 質量分析 / 飛行時間 / 価数弁別 / 波高値分布 |
研究概要 |
飛行時間型質量分析法(Time-Of-Flight Mass Spectrometry; TOF MS)は、低分子から高分子に至る広い質量範囲を、質量ごとのスキャンを必要とせずに一度に計測することのできる優れた質量分析法である。しかしながら、高分子側の検出感度が、従来から用いられているマイクロチャンネルプレート(Microchannel Plate; MCP)検出器によって制限されてきた。一方、超伝導検出器は、分子が検出器表面に衝突した際に励起される格子振動(最大でも数十meV)を検出原理とするため、分子が数十keV以上のエネルギーを持って飛行するTOF MSにおいては、分子量に制限されない100%の検出感度を実現することができる。 さらに、従来のTOF MSでは、分子の質量電荷比(m/z)が得られるのみであり、例えば1量体の1価イオン(質量m,価数z=1)と2量体の2価イオン(質量2m,価数z=2)を区別することは不可能であった。イオン価数弁別を可能にする超高速応答の超伝導ストリップイオン検出器が実現されれば、生体内で重要な機能を持っているタンパク質複合体やアミロイド病の原因とされている凝集体の分析を、従来の高い質量精度を保ったまま分析することができるようになり、学際的・社会的インパクトは大きい。 当該年度は、熱伝導シミュレーションの準備期間を利用して、新たに設計した2mm角の超伝導ストリップ検出器を作製し、分解酵素であるリゾチームの飛行時間と出力波高値の同時計測を行った。検出器は1.2nsという高速応答性を示し、また、リゾチームの1価イオンと2価イオンの波高値が分離されるという初歩的な結果が得られた。今後、価数分離のメカニズムを明らかにする必要があるが、本研究で得られた成果は非常に重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書における達成項目として以下の2点を挙げた。 1.エネルギー弁別の可能な超伝導ストリップイオン検出器(Superconducting Strip Ion Detector; SSID)を開発する。 2.開発したSSIDを既存のMALDI-TOF MSに搭載し、分子イオンの価数弁別を実現する。MALDIの場合は多価のイオンは生成されにくく、1~3価のイオンを弁別することを目標とする。 メカニズムは明らかではないが、MALDI-TOF MSにSSIDを搭載して生体分子であるリゾチームを計測したところ、1価と2価のイオンが弁別されるという初歩的な結果が得られており、早々の目的達成が期待できることから、当初の計画以上に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、価数弁別のメカニズムを明らかにする必要があるが、分子イオンの衝突エネルギーが、衝撃波として基板へ散逸している可能性が考えられる。従って、研究計画作成当初の予定通り、基板材料を変えた際の熱伝導特性および検出器応答をシミュレーションおよび実験の両側面から追究してゆく必要があると考えられる。当該年度において、従来から用いてきたシリコン基板とは熱伝導特性が大きく異なるフッ化リチウム基板を用いて検出器の作製を試みたが、基板の平坦度不足および潮解性の観点から検出器は完成に至らなかった。次年度は、平坦度の良好なフッ化リチウム基板または潮解性の無いフッ化鉛基板上に検出器を作製し、生体分子計測を試みることによって、価数弁別のメカニズムを明らかにする予定である。 また、本研究課題の目的(少なくとも結果)が予想以上に早期に達成できたことから、生体に重要な役割を及ぼす種々の分子イオンの価数分離実験を行い、研究成果の公表を行いたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費100万円のうち、検出器マスク作製費15万円、基板40万円、試薬15万円、旅費30万円である。
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