研究課題/領域番号 |
24619013
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
全 伸幸 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測フロンティア研究部門, 主任研究員 (20455439)
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キーワード | 超伝導検出器 / 超伝導ストリップ / SSID / 質量分析 / 飛行時間 / TOF / 価数弁別 / 波高値分布 |
研究概要 |
従来の質量分析法で測定可能な物理量は、測定対象となる分子の質量電荷比(m/z)であり、単量体の1価イオンと二量体の2価イオンを区別することができない。開発中のパラレル型超伝導ストリップイオン検出器(Superconducting Strip Ion Detector: SSID)は、1.2 nsという高速応答性を示しながら、1価のイオンと2価のイオンに対して異なる波高値を出力するという革新的な実験結果を、本研究課題の昨年度の研究実績として得ている。これらの波高値の違いの物理的起源を明らかにするためには、パラレル型SSID特有のブロードな波高値分布を修正する必要がある。最近の研究により、このブロードな波高値分布は、検出器内における超伝導電流の再分配が原因であることが分かっているが、パラレルに接続された各ストリップラインにバイアス抵抗を接続することで、ブロードな波高値分布を修正することができる。 本年度は、バイアス抵抗を有するパラレル型SSIDを実現するために、様々なアプローチを試みた。結論として、ストリップラインを加工するという手法や、ストリップライン上に常伝導金属(Au)を製膜する方法では、検出器チップの温度上昇や超伝導特性の劣化を招く結果となった。一方、各ストリップラインと検出器ホルダをボンディングワイヤで接続することにより、検出器チップへの熱流入を数十uW程度に抑制し、ボンディングワイヤをバイアス抵抗として機能させることが可能であることが分かった。今後、バイアス抵抗を有するパラレル型SSIDを用いてシャープな波高値分布を確認し、イオン価数による出力波高値の違いの起源を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書における達成目標であるイオンの価数弁別について、実験データは得られており、初歩的であるが革新的な結果が得られている。結果だけではなく、弁別のメカニズムも明らかにすることが重要であり、ボンディングワイヤを利用したバイアス抵抗によって当該メカニズムの詳細を調査することが可能となる。核心に一歩ずつ近づいており、研究進捗は順当であると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、バイアス抵抗を有するパラレル型SSIDを用いてシャープな波高値分布を確認する。エネルギーが2倍である2価イオンの方が波高値が小さいことから、何らかのメカニズムによって2価のイオンのエネルギーが散逸していると考えられるが、2価のリゾチームイオンの飛行速度は検出器材料であるニオブの音速の5倍以上であることから、衝突の際に衝撃波を生じていると推定される。リゾチーム以外の様々な分子を用いて異なる飛行速度でSSIDに衝突させ、エネルギー散逸のメカニズムを明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初ニオブをフッ化リチウム基板上に作製する予定であったが、潮解性があり、微細加工が困難であったため、フッ化リチウム基板の購入を止めた。代替としてフッ化鉛基板が最適であると考えている。 全額、フッ化鉛基板(消耗品)である。
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