ヒトIgGの4つのサブクラスの糖ペプチドはEEQ(Y/F)NST(Y/F)RのAsnにN型糖鎖が付加している。これらの糖ペプチドおよびペプチドの衝突断面積の測定をイオンモビリティー質量分析計SYNAPT G2 HDMS (Waters)および米国インディアな大学Clemmer Groupの装置を導入して行った。さらに、分子力学法(MM)を用いたコンフォメーション探索および分子動力学法(MD)によるシミュレーションを行い、実験結果と比較することによって糖ペプチドにおける糖鎖-ペプチド間相互作用について検討した。IgG1 (EEQYNSTYR)とIgG2 (EEQFNSTFR)では、分子量がIgG1の方が32Da大きいにもかかわらず、同じ糖鎖構造の糖ペプチドの衝突断面積はIgG2に比べてIgG1の方が小さく、コンパクトな構造をとった。これらの関係はGlcNAc1糖のみが付加した糖ペプチドにおいても見られた。また、IgG3 (EEQYNSTFR)とIgG4 (EEQFNSTYR)で分子量は等しいが、ペプチドおよび糖ペプチドの量オフでIgG3に比べてIgG4の方が小さかった。計算によって得られた構造から、糖鎖がペプチド骨格と水素結合を形成することにより糖ペプチドがコンパクトな構造をとると考えられたが、どこと水素結合を形成するかはペプチド配列に大きく依存する結果であった。衝突断面積については実験結果と同様の関係が見られ、定性的に一致していた。また、あらゆるペプチド部分を持つGlcNAc糖ペプチド試料を作成し、IgG糖ペプチドにおいて観察された現象がより一般化された糖ペプチドにおいても再現されるかを検証した。その結果、GlcNAc糖ペプチドは、分子量にかかわらずペプチドに比べて衝突断面積が小さく、コンパクトな構造をとる傾向があることが確認された。従って、糖鎖構造に因らず、糖が付加することが糖ペプチドのコンフォメーションに大きく影響を与えることが明らかとなった。
|