研究課題/領域番号 |
24620009
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
大森 正之 中央大学, 理工学部, 教授 (80013580)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 宇宙実験 / 光合成 / ナノバブル |
研究概要 |
つくばのJAXA実験棟において、インド回収衛星SRE2を利用した日本-インド共同宇宙実験「微小重力環境下におけるシアノバクテリアの光合成能と増殖に関する研究」のために開発された実験装置を用いて、光合成活性の測定を行なった。実験材料には、藍藻スピルリナ(Arthrospira platennsis NIES-39)を用いた。スピルリナは各10mlをテドラーバッグに挿入した。光照射はLED光を連続照射した。温度は恒温機内を28°Cにして培養した。反応は一定時間後にエタノールを自動的にポンプ注入して、停止させた。反応停止後、テドラーバッグを反応装置から取り出し、ガスサンプリング用のバルブを装着してから中央大学に持ち帰り、バッグ内の全ガス量を測定するとともに、酸素の同位体量を、ガスクロマトグラフ・質量分析計を用いて測定した。また、エタノールを注入しない試料について、バッグ取り出し後に細胞濃度(OD720)、クロロフィル量、タンパク質量を測定した。実験の結果、本装置内でスピルリナが増殖したことが確認された。また、H2OからO2が発生したことが確認された。 ナノバブル水の作成に関しては、ブラウン社のハンドブレンダー、マルチクイックMR400Plusによって超微細気泡を発生させた。超微細気泡の観察はOlympus IX71-TIR 全反射型光学顕微鏡を利用した暗視野顕微鏡法により行った。気泡密度の測定は今のところ良い方法が見つかっていないが、顕微鏡に高速ビデオ装置をつなぐことにより測定が可能であることの予備的な結果を得ている。今回は1%エタノール水に超微細気泡を発生させて、動物細胞に対する生理的な影響を検討した。その結果アカツメガエルの培養細胞では、超微細気泡は高塩濃度による細胞増殖の阻害を回復させる効果のあることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)宇宙における光合成実験に向けた基礎実験および装置開発について:本年度はJAXAがインド人工衛星搭載用に作成した、全自動型微細藻類培養装置を用いて光合成酸素発生活性を測定した。装置がすでに開発されていたこともあり、実験はつくばのJAXAの研究施設内において進められた。予定通り3回行った実験の内、最初の実験では装置が順調に動かないトラブルが発生したが、その後コントロールプログラムの改善や送液ポンプの交換などにより、ほぼ予定通りに反応開始と停止を行うことが出来た。スピルリナの増殖は実験ごとに良くなり、3回目が最も良かった。光合成活性はH218OからのO2の発生により測定したが、最初O2ガスの測定にやや問題があった。すなわち、テドラーバッグの肩に取り付けた注射器用のバブルから、ガスが採取時に漏れることがあった。3回目の実験ではこの問題も解決した。今後は十分に時間をかけて慎重にバブルを取り付ける必要がある。当初の予定はほぼ達成できたと思う。 2) マイクロ・ナノバブルの作成について:マイクロ・ナノバブルはブラウン社の泡だて器と細胞破砕用のフィスコトロンを用いて作成を試みたが、ブラウン社の泡だて器の方が効率よく微細気泡を発生させた。おそらく、フィスコトロンに装着した回転歯が小さすぎたためであろう。また微細気泡は1%エタノール存在下で最も多く発生し、エタノール濃度を上げてもそれほど多くはならなかった。微細気泡が出来るための最適エタノール濃度があると思われる。また、顕微鏡観察においては、空気中の塵の混入をいかに防ぐかが問題であることが明らかとなった。カバーガラスの洗浄に留意する必要がある。また、気泡とゴミの区別をする良い方法の確立が必要である。ナノバブルのビデオ撮影はほぼ予定通りに行うことが出来た。全体的にはほぼ当初の予定通りに研究が進行したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
1)2014年度は炭酸固定能と窒素同化能の測定に関して、炭素と窒素の安定同位体を用いて検討する。すなわち、13Cを含む重炭酸ソウダと15Nを含む硝酸ナトリウムを与えた場合の同化能について、反応停止後の有機態の13Cと15N量の測定から評価する。これまでの実験から、本培養装置の培養条件下で藍藻が増殖することは藻体のタンパク質量の増加などから確認されているので、藍藻が、与えたH13CO3-や15NO3-を利用していることを検証することが目的である。また、宇宙における藍藻の培養に関しては、宇宙における液体の取り扱いの難しさから、液体培養よりも気相培養の方が現実的であると思われるため、気相培養用の培養装置を開発する。気相培養に適した藍藻として、他の藍藻よりも乾燥耐性に優れた陸生藍藻のNostoc commune を用いる。培養装置の大きさは国際宇宙ステーション(ISS)内に装備されている植物生育用のラックの中に納まる大きさとする。この装置を用いて気相中で藍藻を培養し、増殖速度を求める。 2) マイクロナノバブルの作成については前年度に引き続き暗視野顕微鏡を用いた観察と電子顕微鏡観察を試みる。マイクロナノバブルの濃度を高めるため、透析チューブやタンパク質濃縮用フィルターを利用する。植物の生育に対するマイクロナノバブルの生理学的影響についてはカイワレ大根の発芽と茎の伸長さらには根の発育におよぼす影響について観察を継続する。また、植物以外の生物に対する影響なども、検討してみたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度はJAXAの作成した人工衛星搭載用の全自動培養装置を全面的に利用して実験したため、予想よりも経費がかからず、287,164円の支出となった。そのため約140万円が次年度に繰り越された。次年度は消耗品費と旅費が主な必要経費となる。また、安定同位体含量の測定を依頼分析する予定であり、そのための費用、およびナノバブル関して専門的な知識を持つ研究者との交流などに経費を計上している。遺伝子解析を行う必要が生じた場合は外注による解析を行う予定である。
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