研究課題/領域番号 |
24620010
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岐阜医療科学大学 |
研究代表者 |
田中 邦彦 岐阜医療科学大学, 保健科学部, 教授 (60313871)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 宇宙服 / 可動域 / 減圧症 |
研究概要 |
現在使用されている船外活動用宇宙服(以下、宇宙服)は内部を0.3気圧に与圧している。この低い与圧によって宇宙飛行士は減圧症の危険に曝されている。しかし内部与圧を高めると外部真空との圧格差増大による膨張で可動性低下を招く。これまでに我々は船外活動に最も重要なグローブについて、伸縮性素材を用いるこの与圧と可動性という矛盾を解決することを試みてきた。即ち気密を確保する気密層にラテックスを、気密層の破裂を防ぐための拘束層にスパンデックスを用いてグローブを作成した。その結果、予備呼吸を行わなくても減圧症を引き起こさない0.65気圧でも高い可動性が得られることを証明してきた。本年度はその結果を肩関節、股関節といったより大きな構造かつより大きな可動性を有する関節に応用することを試みた。メーカーの協力を得て気密層となるクロロプレンを拘束層となる弾性不織布で被覆し、さらにその間に熱伝導性を低下させるチタン層を加工した素材を入手した。これによって気密層・拘束層に断熱層を加えた一体型素材で厚さ0.3mm を実現した。その素材の伸展時と収縮時の張力を測定した。また、可動域を拡大させるために①回転式水平ジャバラ、②時計バンド等に使用されているジャバラブレス、③ジャバラ折り、④ミウラ折り、⑤引きバネ、⑥金属フレームジャバラ等を製作、有用性を検証した。その結果伸縮率の大きさ、可動域の大きさ等から金属フレームジャバラが最も有用性が高くまた応用性も高いと判断した。 さらに、前腕の回内、回外運動を容易にするためのベアリング構造を検討した。通常のラジアルベアリングでは与圧時の気密保持性ならびに軸方向の耐荷重性が低いことからスラストベアリングを採用した。成人の上肢・下肢サイズ製品が存在しないことから今後、実用にむけてこれを自作し与圧時の可動性を検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで伸縮性素材を拘束層に用いる点で問題であったのは可動に無関係な部分の膨張であった。より大きな関節にこの伸縮性というコンセプトを用いるにはこの解決が必要であったが、金属フレームを用いることによって余分な膨張を防ぐことができると考えられる。また、ベアリング部分の気密を保持するにあたってスラストベアリング採用、自作に加えて気密構造を新たに考案することができた。大関節の構造、機能拡張に向けた方針が定まったことは予備呼吸不要かつ高可動は宇宙服を研究、開発する上で大きな前進であった。
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今後の研究の推進方策 |
現在使用されている船外活動用宇宙服(以下、宇宙服)は生地を折りたたむことによって可動域を確保する構造を有しているが与圧後は膨張によって多大は労力を必要としている。本年度は、まず有用性を確認した金属フレームジャバラに動力を使用しない自動伸縮能を付与し、与圧時の可動性を検証する。また従来の折りたたみ構造と可動域および可動に必要な力の違いを検証する。 現行のアメリカおよび日本人宇宙飛行士が使用している宇宙服は上下分離式であり、独力では装着することができない。本研究ではロシア式を元に独力で装着できる体幹フレームを製作し与圧時の形状を検証する。また肩関節および股関節モデルを作成しこれに接続させた際の可動性を検証する。体幹フレームには圧力・温度・湿度・気流・酸素および二酸化炭素濃度調節にかかるバルブ構造を付与し、生命維持装置に関連した研究に備える。 また前腕の回内・回外運動を行うためのスラストベアリングを作成し上記構造に付与することで与圧下での上肢全体の運動を可能とさせる。スラストベアリングは従来の構造では軸受となる部分が固定されておらず分裂してしまうため、非与圧状態でも分離せず、また与圧によって受動的に気密、可動性がさらに高まる構造とし、与圧下での有用性を検証する。さらに上記の構造全体における圧力耐性を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
肩関節、股関節用に実サイズの金属フレームジャバラを作成し、これに伸縮機能を付与した状態で大気圧+0.65気圧に与圧し、その可動域と可動に必要なモーメントを計測する。さらに実サイズのスラストベアリングを作成し、気密保持しつつ上記パーツと接続し、上下肢の高可動を実現する。脱着が容易な体幹構造を製作しこれに圧力調整、温度調整用のバルブを付与したのち、上下肢パーツを接続し、圧力調整を行う。 また、体温調節用下着の素材を検討する。
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