現在の船外活動用宇宙服(以下、宇宙服)内圧は0.3気圧と低いため減圧症の危険を伴う。しかし内圧を高めると外部真空との圧格差増大による膨張で可動性が低下する。これまでに我々は伸縮性素材を用いたグローブでこの与圧と可動性という矛盾を解決してきた。昨年までの研究で、肩、手首、腰、股関節といった回転運動を行う大関節において、ベアリングを採用することとした。気密性を上げるためには、ボール部分にできる限り間隙を小さくする構造が必要であるが、気密性が高まるほど摩擦によって可動性が低下する。逆に可動性を高めれば気密性が低下する。そこで二重ベアリング構造を考案し、可動部分にはまったく与圧ガスが流入しない構造を試作した。その結果、ベアリングそのものに複雑な構造を付与することなく、0.65気圧であっても全く可動性を損なわないことを、肩関節を想定した大サイズにて確認した。しかしながら構造が大きくなりすぎる欠点があった。そこで本年度は従来のシールドベアリング内に密封剤兼潤滑剤としてシリコングリースを封入した。内外の気圧差が0の状態と比較するとやや可動性が低下するものの本来の構造を維持したまま圧較差0.65気圧でも回転運動を行うことができたため、こちらを採用することとして全身スーツ製作を開始した。 また、宇宙服という閉鎖空間で長時間作業すると体温が上昇する。これを防止するため昨年度、自己発汗スーツに任意の時間に噴霧し、冷却を開始する機構をとりつけることで、この欠点が解消できるのではないかと考え、その試作を行った。これを実際に、被検者に装着させ、運動させたところ従来の冷却服に比較して、服内湿度をあげることなく大幅な冷却機能改善を認めた。
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