平成25年度に引き続き、バイスタンダー効果誘導の放射線線質依存性とそのメカニズムを明らかにする目的で、日本原子力研究開発機構の重イオン(炭素、ネオン、アルゴン)、高エネルギー加速器研究機構のX線、放射線医学総合研究所のプロトンの線質の異なる放射線マイクロビーム照射に対するヒト正常細胞の生物効果のバイスタンダー効果誘導に対する放射線線質依存性を調べた。平成26年度はヒトX染色体上に位置するHPRT遺伝子座に対する突然変異誘発効果を生物学的エンドポイントとして用いた。細胞内在性因子としてギャップジャンクションを介した細胞間情報伝達機構に焦点を当てて、隣同士の細胞が接触した状態で0.01%レベルの細胞のみにマイクロビームが直接照射される実験条件で照射後3時間でのHPRT遺伝子座突然変異を調べたところ、炭素イオンマイクロビーム照射群の突然変異誘発頻度は、非照射群に対して約6倍高くなったが、ギャップジャンクション特異的阻害剤を併用すると突然変異は非照射群と同じレベルまで減少した。一方同じ重イオンであるネオンやアルゴンイオン、また低LET放射線に分類されるX線やプロトンでは、突然変異は非照射群と統計学的に有意な差が観察されなかった。以上の結果から、昨年度報告した細胞致死効果と同様、遺伝子突然変異で観察されたバイスタンダー効果の誘導は、放射線の線質(エネルギー付与構造の違い)に強く依存していること、細胞内在性因子としてギャップジャンクションを介した細胞間情報伝達機構が密接に関与している、ことが示唆された。
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