研究課題/領域番号 |
24620015
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
中尾 玲子 独立行政法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 研究員 (20582696)
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キーワード | 筋萎縮 / 体内時計 / 睡眠障害 / 時計遺伝子 |
研究概要 |
骨格筋代謝(特に筋タンパク質代謝)における体内時計遺伝子の機能を明らかにするために、平成24年度に野生型マウス、時計遺伝子Bmal1欠損マウスを用いて坐骨神経切除試験を実施した。これらのマウスでは筋重量減少率、筋萎縮マーカー遺伝子発現誘導に差が見られなかったことから、除神経による筋萎縮の機構は時計遺伝子の制御が弱いことが示唆された。この結果に基づき、平成25年度は、他の筋萎縮モデルであるグルココルチコイド剤投与、加齢のモデルを用いて当該マウスの筋重量を比較する実験を計画した。 グルココルチコイド剤は抗炎症・免疫抑制作用を持つ薬剤として使用されるが、慢性的な高濃度の投与は、筋萎縮の副作用を引き起こすことが知られている。一方、副腎からの内在性グルココルチコイドホルモンの分泌には、活動期直前にピークとなる日内変動が存在する。そこで予備試験として、グルココルチコイド剤誘導性の筋萎縮に対する投与時刻の影響について検討を行った。マウスにグルココルチコイド剤を1日1回、朝(内在性グルココルチコイドが低値になる時刻)または夕方(内在性グルココルチコイドが高値になる時刻)に10日間腹腔内投与した。すると、グルココルチコイド剤投与による筋萎縮マーカー遺伝子(MAFbx)の発現誘導や筋重量の減少については、朝の投与でその影響が大きく見られた。これらの結果から、筋肉のグルココルチコイド剤に対する感受性には時刻依存性があり、投与時刻を工夫(内在性グルココルチコイドホルモンのリズムに合わせて投与)することで投与による筋萎縮を軽減させることが可能であると考えられる。この成果をChronobiology International誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
グルココルチコイド剤投与、加齢のモデルを用いて筋肉特異的Bmal1欠損マウス、野生型マウスの筋重量を比較する実験を計画した。グルココルチコイド剤投与モデルについて、先に述べたように投与時刻が異なれば筋萎縮の程度も異なることを論文にまとめたため、当該マウスを用いた実験は平成26年度に行う予定である。加齢モデルについては現在も飼育を継続しており、解析は平成26年度に行う。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、グルココルチコイド剤投与、加齢のモデルを用いて筋肉特異的Bmal1欠損マウス、野生型マウスの筋重量、筋萎縮マーカー遺伝子発現量を比較し、筋萎縮機構が時計遺伝子の制御を受けているか、今年度に引き続き検討する。 一方、骨格筋に発現する時計遺伝子は、体内時計中枢である脳(視交叉上核)からの神経性因子、液性因子による制御を受け日周発現し、様々な生理機能を調節すると考えられている。我々は、除神経(坐骨神経切除)した骨格筋において各時計遺伝子の日周発現の位相、振幅がそれぞれ異なる変動パターンを示すことを見出した。この結果から、骨格筋における時計遺伝子は、各遺伝子に特異的な機構により脳の体内時計に同調し、下流の遺伝子の働きを調節することが示唆された。そこで現在、坐骨神経切除試験に供したマウス骨格筋における遺伝子の日周発現についてマイクロアレイ解析を行い、時計遺伝子およびその下流の遺伝子の日周発現の動態、発現位相や振幅を制御する因子について解析を進めている。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度に実施した坐骨神経切除試験において、時計遺伝子欠損マウスと野生型マウスの表現型に差が見られず、当初予定していた実験計画を修正したため。 平成26年度に必要となる主な研究費は、DNAマイクロアレイの結果を確認するためのPCR、ELISAアッセイに必要な試薬の購入、動物の飼育・購入、研究成果を学会で発表するための旅費、論文発表に必要な英文校正等を計上している。
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