研究課題/領域番号 |
24621008
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
中村 洋一 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (90180413)
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研究分担者 |
森山 光章 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (20275283)
高野 桂 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (50453139)
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キーワード | アストロサイト / ミクログリア / グリコーゲン / グルタミン酸取込み / サイトカイン / 神経栄養因子 / トランスグルタミナーゼ |
研究概要 |
平成25年度は,アストロサイトの細胞機能を変化させる薬剤をいくつか見出すことができた。神経細胞の生存維持に重要な働きを演ずる神経栄養因子類の産生がアンフォテリシンBにより増加すること,テオフィリンによりNO産生能が増強すること,ドーパミンによりEC-SOD活性が誘導されることなどである。原著論文を3報出版することができ,現在2報投稿中である。アストロサイトが神経細胞の周囲を取り囲んで,脳全体のエネルギー代謝の要となっていることから,種々の薬剤によりその細胞機能が変化することは,中枢神経系における睡眠/覚醒のエネルギー代謝の変化を制御している可能性がある。アストロサイトの細胞機能のうち,神経栄養因子やサイトカイン類の産生に加え,細胞外構造の形成維持に必須の働きを演ずるトランスグルタミナーゼ(TG)の消長についても複数の学会発表の機会を得た。 また,論文として今後発表することのできうる結果として,以下の2つの結果を得ている。 アストロサイトのグリコーゲン代謝:昨年度開発したグリコーゲンの高感度定量法を用いて,以下の結果を得た。ATPの1時間刺激によりグリコーゲンが減少する傾向が見られるが,24時間刺激によりATP濃度依存的に約2倍に増加した。これは既報の結果を再現するものである。 アストロサイトのグルタミン酸(Glu)取込み:アストロサイトは周囲のアストロサイトとギャップジャンクションにより結合しており,細胞相互の代謝物の交換や情報伝達の手段となっていると考えられているが,ギャップジャンクション阻害剤のcarbenoxolone (CBX) 150 µMやoctanol 300 µMによりアストロサイトのGlu取込み活性が有意に上昇した。今後これらを発展させるべきである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アストロサイトのエネルギー代謝状況を解析するための検討課題の1つであったグリコーゲンの高感度定量法はほぼ確立することができたが,96ウェルプレートを用いる培養細胞系ではばらつきが大きいことがわかり,24ウェルプレートに切り換えることにし,他にも改良を加える必要があった。種々の睡眠関連物質の効果を検索したが,現在のところ,グリコーゲン量変化を大幅に引き起こす新規薬剤は見出されていない。今後とも継続する必要がある。グリコーゲンを蛍光染色する色素を用いて,脳内のグリコーゲン量の可視化についてすることを計画していたが,まず,培養アストロサイトに適用することが必要である。 Glu取込みについてはギャップジャンクション阻害剤によりその活性が有意に上昇することを見出したが,大幅に増強されるというものではない。他の薬剤等で効果の大きいものを見出す必要がある。ギャップジャンクション阻害剤のグリコーゲン代謝についても検討の必要がある。 生体動物の脳におけるグリコーゲン量の解析を行う計画についても,まだ端緒に付いておらず,今後多くの準備が必要となる。蛍光色素による半定量から開始すべきと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に引き続いて,培養グリア細胞(アストロサイト,ミクログリア)を用いて次の項目について睡眠物質や修飾物質の効果を検討し,睡眠機構におけるグリア細胞の機能変化を検証する。 ①アストロサイトのグリコーゲン含量の変化:既報の薬剤の他の睡眠関連物質の効果を検討する。また,グリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤である1,4-dideoxy-1,4-imino-d-arabinitol (DAB, 300 µM)によりグリコーゲン量が増加する(1時間で約1.5倍)ことを確認できたので(この薬剤によるグリコーゲン量の増加は,間接的にグリコーゲン産生量を測定することとなる),睡眠関連物質によるグリコーゲン産生量についても検索を進める。 ②グリコーゲンを蛍光染色する色素2-(N-[7-nitrobenz-2-oxa-1,3-diazol 4-yl]amino)-2-deoxyglucose (2-NBDG)を用いて,培養アストロサイトのグリコーゲン半定量を試み,睡眠関連物質がその増減に影響を与えるかどうかを検索する。 ③アストロサイトのグルタミン酸(Glu)取込み活性:アストロサイトのGlu取込活性がギャップジャンクション阻害剤により増強されることを見出したが,そのメカニズムについての検討を開始する。また,他の睡眠関連物質の効果についても引き続き検討する。Glu能動輸送体は起電性ポンプであり,膜電位が深くなるほどポンプ活性が増加することにより,シナプス活動がより抑制される。細胞外K+濃度を変化させることによるGlu取込活性の調節の詳細を明らかにする。 ④ミクログリアのトランスグルタミナーゼ活性が,各種の細胞刺激により変化することを見出している。この活性におよぼす睡眠関連物質の効果についても検討したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
使用計画に齟齬が生じ,わずかながら次年度に持ち越さざるを得なかった。 全体計画として,26年度の使用額を少なく設定していたため,持ち越した分を含めて,当初の使用計画に沿って使用する。
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