本研究は,カンナビノイドの睡眠・覚醒調節に関わる新たな作用機構の解明を目的とする. まず,構造が異なる5種類のカンナビノイドを選定し,マウスの自発運動量に及ぼす効果を調べたた.4種の合成カンナビノイド[cannabicyclohexanol (CCH),JWH-018,(-)-CP-55940,(+)-WIN-55212-2],及び内因性カンナビノイドのアナンダミドをマウスの行動量が活発になる暗期直前に腹腔内投与したところ,溶媒投与マウスに比べて,CCH,JWH-018及び(-)-CP-55940投与マウスに,顕著な自発運動量の減少がみられた.さらに,この3種の合成カンナビノイドについて用量依存性を調べた結果,用量依存的な自発運動量の減少作用が認められた.次に,睡眠覚醒障害モデル動物として,リポカリン型プロスタグランジン(PG)D合成酵素(L-PGDS)或いはアデノシンA2A受容体遺伝子欠損マウスを用いて,この3種の合成カンナビノイドの自発運動量に及ぼす作用を検討した結果,CCH,JWH-018の自発運動量抑制作用は,野生型マウスの場合と比較して両遺伝子欠損マウスにおいて有意に増強された. 続いて,これら3種の合成カンナビノイドの野生型及びL-PGDS遺伝子欠損マウスの脳波に及ぼす作用を検討した結果,投与後の運動量抑制時の脳波はノンレム睡眠或いはレム睡眠のいずれの脳波とも異なることが判明した.投与後の脳波に共通して,2-5Hzの帯域のスペクトル強度が増加した.また,野生型マウスの場合と比較してL-PGDS遺伝子欠損マウス脳波において,上記帯域のスペクトル強度がより増強された.
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