研究課題/領域番号 |
24650004
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
柳浦 睦憲 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (10263120)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 組合せ最適化 / ロバスト最適化 / 厳密解法 / 発見的手法 |
研究概要 |
情報技術が急速に発展し,大量の情報を高速に入手することが可能になった.このような技術革新に伴って,得られる情報を有効に利用する必要性が高まってきた.この目的において重要な問題として種々の数理情報学的問題が挙げられるが,その多くは組合せ最適化問題として定式化できる.応用上重要な問題はますます大規模化してきているが,NP困難性に代表されるように,多くの組合せ最適化問題に対し,問題の規模が大きい場合,厳密な最適解を求めることが極めて困難であることが認知されている.このような問題に現実的に対処するための手法としてさまざまな最適化手法が提案されてきている.最適化手法のほとんどは,入力データが既知のものであるという前提のもとにアルゴリズムが設計されている.しかし,多くの現実問題において入力データには曖昧さや不確定要素が内在している.たとえば,生産計画を立てるために最適化問題を解く段階では,需要が確定しておらず,需要予測に基づいて計画を行わなければならない.このような例では,計画の実行が終了した時点では需要は定まっており,確定した需要に基づいた実績によって計画の善し悪しが判断される.したがって,「計画段階で別の判断をしていればもっと利益が上がったのに」と後悔することのないような計画が望まれる.このような不確定要素を深く考慮せず,たとえば予測値をそのまま入力データとして既存の最適化手法を適用して得られた解を用いたのでは,入力データの変動に大きく影響されないような解を与える機能がないため,大きな後悔を招く恐れがある.このような問題を解決するため,後悔の度合いを最適化問題を解くことによって評価するという枠組みを代表的な組合せ最適化問題に対して適用し,効率的な解法の設計を目指した.初年度は具体的な対象として0-1ナップサック問題を取り上げ,理論的性質の解明を試み,一定の成果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
提案手法の有効性を確認し,方法論を確立するために,初年度は,まず,代表的な組合せ最適化問題のひとつであり,問題構造も単純である0-1ナップサック問題のロバスト最適化を対象として,その理論的性質の解明に力を注いだ.0-1ナップサック問題は,ナップサックの容量と,複数の要素の各々に対して利得とサイズが与えられたとき,ナップサックに入れる要素をいくつか選び,それらのサイズの合計がナップサックの容量を超えないという条件の下で,選んだ要素の利得の合計を最大化する問題である.この問題はNP困難であることが知られているが,要素数1万程度であれば比較的高速に厳密な最適解が得られることが知られている.基本的な問題であり,多くの応用問題を解く際にしばしば子問題として現れる非常に重要な問題である.この問題のロバスト最適化問題に対し,探索の初期の段階で目的感数値がとりうる値について解析し,その結果に基づいて適切な初期制約集合を指定する手法を考案した.また,目的関数値に対する上下界を得る方法についても検討を進めた.実験的解析はやや遅れているものの,理論的解析については概ね順調に成果が得られたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
0-1ナップサック問題のロバスト最適化問題に対する理論的性質の解明はある程度進んだので,今後はこの問題を解くための最適化手法として,まず,数理計画的なアイデアを試みやすい分枝限定法を対象として研究を進める.分枝限定法では,最適解が得られない場合でも,最適値に対する上界と下界の両方が得られるので,これらの値の近さを検証することで提案手法の性能を評価することが出来る.すなわち,今回対象とするような既存研究がないような問題であっても,客観的に性能の善し悪しを判断できる.次にメタ戦略に基づくアルゴリズムの開発を行う.そのようなアルゴリズムにより,分枝限定法よりも大規模な問題例に適用でき,より実用的なものが設計できると考えている.また,そのようなアルゴリズムの評価には,分枝限定法の計算過程で得られる上界あるいは下界の情報を利用する予定である.さらに,一般化割当問題や集合被覆問題のように,基本的でありつつ多くの応用問題を定式化する汎用性を持つ問題も研究対象としたいと考えている.一般化割当問題は,いくつかの仕事とエージェントが与えられたとき,各エージェントの資源制約を守るように各仕事を丁度ひとつのエージェントに割り当てるときの総割当コストを最小化するという問題である.代表的なNP困難問題のひとつであり,割当という基本的な構造を有しているため,応用も多い.集合被覆問題}は,部分集合のいくつかを選んで要素集合を被覆する総コスト最小の組合せを求める問題であり,代表的なNP困難問題のひとつである.問題構造は単純であるが,飛行機・列車・バスなどの乗務員のスケジューリングや配送計画・集配計画などの実務上重要な複雑な問題にも応用を持つ,きわめて汎用性の高い問題である.これら二つのロバスト最適化問題に対し,効率的なアルゴリズムの開発を狙う.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度以降は本年度構築した理論的基盤をもとにアルゴリズムの実装に力を入れる予定である.そのための計算機環境の整備や,プログラミング補助の人件費に予算を充てたいと考えている.また,情報収集や研究打ち合わせのための旅費も必要としている.
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