研究課題/領域番号 |
24650004
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
柳浦 睦憲 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (10263120)
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キーワード | 組合せ最適化 / ロバスト最適化 / 厳密解法 / 発見的手法 |
研究概要 |
情報技術が急速に発展し,大量の情報を高速に入手することが可能になった.このような技術革新に伴って,得られる情報を有効に利用する必要性が高まってきた.この目的において重要な問題として種々の数理情報学的問題が挙げられるが,その多くは組合せ最適化問題として定式化できる.応用上重要な問題はますます大規模化してきているが,NP困難性に代表されるように,多くの組合せ最適化問題に対し,問題の規模が大きい場合,厳密な最適解を求めることが極めて困難であることが認知されている.このような問題に現実的に対処するための手法としてさまざまな最適化手法が提案されてきている.最適化手法のほとんどは,入力データが既知のものであるという前提のもとにアルゴリズムが設計されている.しかし,多くの現実問題において入力データには曖昧さや不確定要素が内在している.たとえば,生産計画を立てるために最適化問題を解く段階では,需要が確定しておらず,需要予測に基づいて計画を行わなければならない.このような例では,計画の実行が終了した時点では需要は定まっており,確定した需要に基づいた実績によって計画の善し悪しが判断される.したがって,「計画段階で別の判断をしていればもっと利益が上がったのに」と後悔することのないような計画が望まれる.このような不確定要素を深く考慮せず,たとえば予測値をそのまま入力データとして既存の最適化手法を適用して得られた解を用いたのでは,入力データの変動に大きく影響されないような解を与える機能がないため,大きな後悔を招く恐れがある.このような問題を解決するため,後悔の度合いを最適化問題を解くことによって評価するという枠組みを代表的な組合せ最適化問題に対して適用し,効率的な解法の設計を目指した.本年度は具体的な対象として0-1ナップサック問題と一般化割当問題を取り上げ,一定の成果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
提案手法の有効性を確認し,方法論を確立するために,本年度は,まず,代表的な組合せ最適化問題のひとつであり,問題構造も単純である0-1ナップサック問題のロバスト最適化を対象として,提案手法の実験的解析に力を注いだ.0-1ナップサック問題は,ナップサックの容量と,複数の要素の各々に対して利得とサイズが与えられたとき,ナップサックに入れる要素をいくつか選び,それらのサイズの合計がナップサックの容量を超えないという条件の下で,選んだ要素の利得の合計を最大化する問題である.この問題はNP困難であることが知られているが,要素数1万程度であれば比較的高速に厳密な最適解が得られることが知られている.基本的な問題であり,多くの応用問題を解く際にしばしば子問題として現れる非常に重要な問題である.この問題のロバスト最適化問題に対し,初年度に解明した理論的性質を利用したアルゴリズムをいくつか開発し,その実験的解析を進めた.また,もう少し複雑で一般的な構造を持つ代表的な組合せ最適化問題である一般化割当問題に対するロバスト最適化の手法の検討も進めた.一般化割当問題は,いくつかの仕事とエージェントが与えられたとき,各エージェントの資源制約を守るように各仕事を丁度ひとつのエージェントに割り当てるときの総割当コストを最小化するという問題である.代表的なNP困難問題のひとつであり,割当という基本的な構造を有しているため,応用も多い.探索の初期の段階における制約集合と目的関数値の関係について解析し,タイトな上下界を得ることに成功した.また,近似解法をいくつか提案し,そのうちのひとつに対する近似精度保証を得ることに成功した.この問題の実験的解析は今後の課題として残っているものの,理論的解析については概ね順調に成果が得られたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
0-1ナップサック問題のロバスト最適化問題に対する理論的性質の解明および厳密解法の開発はある程度進んだので,今後はこの問題を解くための最適化手法として,近似解法を対象として研究を進める.具体的には,数理計画手法を利用した発見的解法をまず手がける予定である.近似解の精度に関する理論的性質についての解析も進める.一般化割当問題については,まず,Benders'分解法あるいは分枝限定法に基づく厳密解法の開発を進める.分枝限定法では,最適解が得られない場合でも,最適値に対する上界と下界の両方が得られるので,これらの値の近さを検証することで提案手法の性能を評価することが出来る.今回対象とする問題の後悔最小化問題には既存研究がないが,そのような問題であっても,厳密解法が開発できれば,それを元に近似解法についても客観的に性能の善し悪しを判断できる.次にメタ戦略に基づくアルゴリズムの開発を行う.そのようなアルゴリズムにより,分枝限定法よりも大規模な問題例に適用でき,より実用的なものが設計できると考えている.また,そのようなアルゴリズムの評価には,分枝限定法の計算過程で得られる上界あるいは下界の情報を利用する予定である.さらに,このタイプのロバスト最適化の手法をより一般的なものにするため,多次元ナップサック問題やスケジューリング問題のように,応用上重要な他の問題にも研究対象を広げていきたいと考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は概ね順調に研究は進んだものの,理論的な解析において一部再検討が必要な部分がでてきたため,そのような理論的解析に時間が必要であった.そのため実験的解析のために予定していた費用の一部を次年度に使用することにした. 次年度は本年度構築した理論的基盤をもとにアルゴリズムの実装に力を入れる予定である.そのための計算機環境の整備や,実験補助の人件費に予算を充てたいと考えている.また,情報収集や研究打ち合わせ,および成果発表のための旅費にも費用を充てる予定である.
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