研究課題/領域番号 |
24650008
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山下 雅史 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 教授 (00135419)
|
キーワード | 分散システム / 分散ロボットシステム / 確率的アルゴリズム / 自己安定性 |
研究概要 |
平成25年度の研究実施計画として、分散システムの領域複雑さを掲げた。しかし、平成24年度の研究実施計画が確率的自己安定性の理論であり、ランダムウォークのような確率的システムに関する発表が業績欄に混じっている。以下に述べる基本的な結果を纏めることができ、満足できる一年であったと総括している。具体的に述べる。 最大の収穫は自律分散ロボットシステムに関するものである。このシステムに属するロボットは識別子を持たず、共有の座標系や情報を交換するために通信機能を持たない。このようなロボット群をある幾何パターンに整列させる問題を検討した。たとえば、ロボットを一直線上に並べるといった問題である。一般に、ある問題の可解性はロボットに搭載されている記憶の量(領域複雑さ)とロボット群の動作の同期の程度に強く依存している。しかし、我々は、ロボットシステムが形成できる幾何パターンの種類は、領域複雑さと同期の程度と(ほとんど)関係しないことを証明できた。記憶がない完全非同期ロボットは、無限の記憶を持つ完全同期ロボットと(2台のロボットによる点の形成を唯一の例外として)同じ種類の幾何パターンを形成できる。この成果はSIAM J. Computing誌に投稿済みであるが、査読中であり、残念だが業績欄には載せていない。 上記のパターン形成問題の中で最も難しい問題は、上記の結果から分かるように(意外なことに)2台のロボットの一点集合問題である。従って、この場合を詳しく検討することで、記憶のパターン形成における役割が明確になる。学会発表1はこの立場から記憶の役割を明らかにした。学会発表2では、確率的自己安定性の理論を構築する中で現れた、局所情報と大域情報のシステムに与える影響を評価する問題を解決しようとしたものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究業績の概要および業績欄に示したように、おおよそ順調に推移している。交付申請時には、24年度に行った確率的自己安定性の研究を本研究全体の核になる可能性を秘めていると位置づけた後、25年度には、そこから現れる確率的問題を引き続き研究するとともに、分散システムの領域複雑さについても研究を開始すると説明した。後者については、学会発表1と共に、研究業績欄に載せることはできなかったが、上で説明した決定的な結果を得ることができた。 前者については、学会発表3~5に示す結果を得ることができた。これらは、確率的分散システムの動作を表現するための道具でもある、ランダムウォークを、特に脱乱択化(決定的アルゴリズムによる模倣)という立場から検討したものであり、確率的自己安定性と決定的自己安定性の相違を理解するために行った。これらの結果の内学会発表3、4は、現在、国際会議に投稿中である。一般に、分散システムの能力は、振る舞いの影響が及ぶ範囲の大きさに決定的に依存する。たとえば、ロボットの持つ視野が十分に小さいときには、他のロボットの振る舞いを知覚できず、協調動作を行うことは不可能である。従って、決定的システムでは視野が狭まると分散システムの能力は急速に落ちる。しかし、この下落は確率的動作を導入することによって緩和できる。学会発表2では、視野と確率的操作との関係を明らかにした。 以上の業績を研究が順調に進んだ証拠と受け取って頂ければ幸いである。
|
今後の研究の推進方策 |
当初に予定した平成26年度の計画は、平成24、25年度に行った研究を踏まえて、その完成を目指すことである。当初のテーマ(a)-(e)の中で、(a)確率的自己安定性の理論を平成24年度に、(b)分散システムの領域複雑さを平成25年度に集中的に検討した。また、(d)局所情報の価値は検討を始めており学会発表2でその一部を公表した。また、(c)動的グラフ上の乱歩の理論については、学会発表3、4で示したように、検討を開始しているが、グラフは静的であり、動的な場合については手が付いていない。従って、本年度の主要な研究テーマは(c)、(d)と共に、(e)分散システムと環境の共変になると考えている。具体的にに述べると、Population Protocolモデルをその外部環境を観察できるように拡張し、環境が変化すると、それに従って、Population Protocolが自律的に適応される、すなわち「進化」が発生するメカニズムを検討したい。より具体的に述べる。Population Protocolでは、従来は、初期状態と十分に時間が経過した後で安定する状態との間の関係を関数として捕らえ、実現可能な関数の族が検討対象であった。我々は、PopulationProtocolを、たとえば、化学反応のモデルと捕らえて、その時間発展に興味を持って検討を開始しており、特に、状態が振動する現象に注目している(振動の発生は自律性の発現という視点から興味がある)。本年度は、環境の変化に従って振幅や周波数が変化するようなPopulation Protocolについて、その存在性も含めて研究をしたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度までに得られた成果の多くは、国際会議での採択が期待される。本年度内には採択に至らなかったものの、既に国際会議等へ投稿を行っており、来年度には採択、口頭発表が見込まれるため、海外渡航旅費等を次年度に繰り越す。 学会発表3、4は国際会議での採択がほぼ確実であると見込まれるため、主に国際会議参加のための海外渡航旅費、参加費等に充当する。
|