研究課題/領域番号 |
24650009
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
末吉 豊 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80128040)
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研究分担者 |
工藤 愛知 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00112285)
原澤 隆一 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10363467)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 総当たりリーグ戦 / スケジューリング / ホーム・アウェー / ブレイク間隔列 / 敵味方表 |
研究概要 |
本研究では,ホーム・アウェーの区別がある総当たりリーグ戦の数理的構造の解明と,公平なスケジュールの効率的作成手法の開発を目的としている.特に,ホームゲームまたはアウェーゲームの連続をブレイクとよぶが,本研究では各チームのブレイクが1回となるリーグ戦(公平なリーグ戦という)の構造解明とスケジュール作成を主要な対象としている. 公平なリーグ戦のスケジュールが作成可能(実行可能という)であるための必要条件はブレイク間隔列が満たす組合せ論的な不等式で記述できるが,中でもブレイク間隔の最大値がスケジュール作成の容易さに深く関わっていることを24年度の研究で明らかにした. 具体的に述べると,ブレイク間隔列が実行可能であるための必要条件を満たすような公平なリーグ戦とそのブレイク間隔の最大値を列挙するプログラムを作成し,ブレイク間隔の最大値の増加の様子を計算機で調べた結果,このようなリーグ戦のブレイク間隔の最大値は,チーム数に対してゆっくりと増加し,チーム数が2のk乗になるときに1増加し,その後一旦元に戻り,チーム数が2のk乗+2の(k-2)乗のときに再び1増加することが64チーム以下のリーグ戦で観察された.特に,チーム数が2のk乗のときは,ブレイク間隔の最大値を与え,かつ実行可能であるための必要条件を満たす公平なリーグ戦は1つしかなかった. これらの事実を理論的に検討した結果,「チーム数が2のk乗のとき,ブレイク間隔の最大値を与え,かつ実行可能であるための必要条件を満たす公平なリーグ戦は1つしかなく,実際にスケジュールを作成可能である」ことを証明した. スケジュール作成に関しては,一般に,2nチームの公平なリーグ戦のスケジュールから,4nチームの公平なリーグ戦のスケジュールでブレイク間隔の最大値が1増加するようなものを構成する手順を発見した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブレイク間隔の最大値の研究は,以前に考察した開幕条件,閉幕条件を満たす公平なリーグ戦の分類およびスケジュール作成から発展したものである.開幕条件,閉幕条件は人工的な条件であるが,分類およびスケジュール作成を容易にする大きな要因であった. これらの条件がブレイク間隔の最大値に関係していることに気付き,ブレイク間隔の最大値を増加させたときの公平なリーグ戦の分類を40チーム以下のリーグ戦で手作業で行ったところ,研究実績の概要に記したような事実が観測された.そこで,プログラムを作成し,64チーム以下のリーグ戦に対して計算機を用いて調べたところ,観測された事実はほぼ正しいのではないかとの感触を得たので,証明に取り掛かった.観測された事実をすべて証明できてはいないが,証明の中で最も重要な部分(チーム数が2のk乗の場合)はできている.これは,研究計画を立てた当初は予測していなかった大きな進展であるが,研究の方向としては正しく進んでいると考えられる. 本研究の大きな目標として,「公平なリーグ戦が実行可能であるための必要条件は十分条件でもあるだろう」(宮代-岩崎-松井の予想)の証明があるが,これに関しては今のところ具体的な進展がない.また,連続する対戦相手がもたらす持ち越し効果を考慮したスケジュール作成や多様な制約に対応したリーグ戦のスケジュール作成についても,次年度以降に向けて予備的な考察を行う予定であったが,24年度は時間的に十分検討する余裕がなかった.しかし,現在進展している部分がこれらの研究にも良い影響を与えることを期待している. 以上のように,予想以上に進展している部分と検討が遅れている部分とがあるが,3年間の研究の初年度としてはおおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
ブレイク間隔の最大値は,公平なリーグ戦全体を統制する重要な不変量と考えられる.1980年代に,de Werraにより,公平なリーグ戦の研究が始まった当初はグラフ理論的な視点からの研究が主流で,グラフの様々な構造をスケジュール作成に応用する方向であった.このような中で,基準スケジュールとよばれるスケジュールが構成され,これを変形していくつかのスケジュールが構成された.ブレイク間隔の視点から見ると,基準スケジュールはブレイク間隔の最大値が(実行可能である公平なリーグ戦全体の中で)最小となるようなスケジュールであるが,本研究で現在検討しているブレイク間隔の最大値を与えるスケジュール(先端スケジュールと名付けたい)は基準スケジュールの対極にあるスケジュールであり,一般の実行可能なスケジュールはその中間にある. 24年度の研究では,先端スケジュールについてかなりの部分を明らかにしたが,チーム数が2のk乗のときにブレイク間隔の最大値が1増加すること,その後一旦元に戻り,チーム数が2のk乗+2の(k-2)乗のときに再び1増加することについては証明ができていない.前者についてはたぶん正しいと思われるが,後者については現時点での数値例だけでは不十分と考えるので,今後この点の解明が当面の問題である. 宮代-岩崎-松井の予想の証明は現時点では難しいかも知れないが,先端スケジュールの構成手法を応用して,性質の良いリーグ戦に対するスケジュール作成は可能と思われる.最終的には,スケジュールを部分から構成して最適化する手法が有効であると考えられるが,そのための指標となる不変量を発見することが重要である. 本研究の手法は,ブレイク間隔列と敵味方表を用いる組合せ論的,数え上げ理論的なものであるが,これをグラフ理論的に解釈することも,予想の証明を含め,今後の研究を大きく進展させる上で重要な到達点になると考えている.
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度に引き続き,成果発表および情報収集のための旅費,論文投稿料,情報科学関連の図書購入に使用する予定である.特に,24年度に得た成果については今後論文として仕上げ,25年度中に投稿予定である.また,情報科学関連の図書については,少し広い視点からグラフ理論や最適化理論,組合せ数学,数え上げ理論,応用数学関連の図書を購入予定である.
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