研究課題/領域番号 |
24650015
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
杉原 厚吉 明治大学, 先端数理科学研究科, 教授 (40144117)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ロバスト計算 / 不可能立体 / 不可能モーション / モアレ縞 / ポップアップカード / 直線骨格線 / 錯視 |
研究概要 |
本研究の目的は,幾何問題の背景空間次元を上げたり下げたりして別の次元の問題に翻訳することによって,計算効率と数値的安定性を向上させるアルゴリズム設計技法を開発することである.この目的に沿って研究を行い,次の実績を得た. 不可能立体・不可能モーションの設計においては,3次元空間に実在する立体を,網膜像に相当する2次元画像へ次元を下げ,それと一致する投影像をもつ3次元立体を特徴づけることにより,錯視の起こる立体のすべての可能性を列挙できるようになった.さらに,ダミーの立体部分をその空間に配置し,それを手がかりとして目的の立体を指定する方法を開発した.これにより今までより直観に合った不可能立体・不可能モーションを設計しやすくなった. 2次元の線図形パターンをほぼ1次元の緩やかにカーブする2組の曲線群の組み合わせとして表現する方法を開発した.これは,モアレ縞の生成過程をヒントにしたもので,それぞれの曲線群はほぼ平行等間隔の縞模様にみえるが,重ね合わせるとモアレ縞効果によってもとの線図形に近い図形が復元される.復元は人間の視覚機能に任せるものであるが,重ね合わせの位置ずれに対してロバストであることも実験的に確認できた. 2次元平面へ折りたたんだカードを広げると3次元空間構造が浮かび上がるポップアップカードの新しい設計法を構成した.これは,直線骨格線とよばれる一般化ボロノイ図をさらに重みつきに拡張した幾何構造を応用した方法である.浮かび上がらせたい形のスケッチから直線骨格線を作り,それを手がかりに切り込みと折れ線のトポロジー構造を定め,重みの調整によってポップアップ構造の条件を満たすように幾何構造を決定する.これにより,ポップアップカードを見通しよく設計できるようになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次元の移動によるアルゴリズムの効率向上と数値的安定性を達成する幾何アルゴリズム設計原理を構築するという最終目標への第一歩として,3つの具体的な問題に対する次元移動効果を確認することができた.本年度の目標は,具体例をいくつか示すことにあったので,その目標は順調に達成できている.
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今後の研究の推進方策 |
不可能立体・不可能モーションの設計原理の構築に関しては,人の直角選好性が利用できることに気づいたので,この方向でさらに性能を高める可能性を追求する. モアレ縞による任意図形の実現に関しては,平行等間隔の縞パターンに平行な線がたくさん含まれる図形に対しては,現在の方法は再現性の性能が劣る。これを克服するために,直交する二つの縞パターンの利用法も開発する。さらに,現在は静止図形のみを対象としているが,今後は動画としての実現方法についても考えていく. 本年度に構成した次元移動法の3つの具体例は,いずれも次元を下げることによってアルゴリズムの効率とロバスト性を高めるものであった.今後の目標の一つは,逆に次元を上げることによって性能と安定性を高めるアルゴリズム設計原理も追求していきたい. その一例は,重みつき直線骨格線の構成アルゴリズムの設計で,ポップアップカードの設計法に関しては,今回利用した重みつき直線骨格線の計算法自体がいまだ完成していない.これについては,直線骨格線という2次元構造を3次元空間へ持ち上げることによって見通しのよいアルゴリズムを設計するアイデアをもっている.与えられた線図形を構成するそれぞれの線分を水平な尾根とし,重みに応じて傾斜の異なる斜面を導入することによって直線骨格線によって分割される勢力圏図を屋根という3次元構造として解釈できる.この3次元構造を,水平な平面を走査平面とする走査法で逐次的に構成することができるであろう.これをコンピュータプログラムとして実装して性能を確認する. これらの具体的対象に対する研究活動を通して,次元移動法というアルゴリズム設計原理の一般論を追求していく.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,ポップアップカード設計法および,その支援的幾何構造である直線骨格線の構成アルゴリズムを完成させ,その分野の国内会議および国際会議で成果を発表する.そのために国内出張および外国出張旅費を使う. 次元移動が効果をもたらす幾何問題を広く調査するため,この分野の著名な研究者を招いて講演をしてもらう.そのために講演謝金を支出する. またアルゴリズムを実装し,性能を確認するためにパーソナルコンピュータおよび磁気記憶装置を購入する. ポップアップカードの試作などのために,工作材料・工作用具なども購入する.
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