研究課題/領域番号 |
24650035
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 泰 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (80210376)
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キーワード | 視覚情報処理 / 画像処理 / 視覚復号型暗号 / 画質 |
研究概要 |
復号にあたって計算を必要とせず視覚のみによって秘密画像を見られる拡張視覚復号型暗号は,透明シートを重ねると秘密画像が浮かび上がるものなどである.これまでは連続階調画像を暗号化しようとすると,ハーフトーニングなどの処理が加わるため著しい画質劣化が避けられなかった.本研究では連続階調画像を対象とした拡張視覚復号型暗号をターゲットに,暗号画像自体にも連続階調を利用する新たな暗号化方式を試みる.これにより連続階調のモノクロ画像の暗号における画質改善ばかりでなく,従来はほぼ不可能であった物理的なカラー画像の暗号化も実現できるものと期待される. 平成25年度は 「ハーフトーニングと暗号化の同時並列処理の洗練」ならびに「連続値を用いた暗号化処理」について研究を進めた.これまで同時並列処理の洗練処理では,ピクセル拡大とコントラスト低下への対応に焦点を当てていた.しかし,結果としてのハーフトーン画像が原画像の情報をどれだけ残しているかという観点がなかったため,原画像との類似性を表す PSNR値について検討を行なった.一般にコントラストの高い画像が与えられるとハーフトーン画像のPSNR値は低下する傾向にある,したがって,視覚復号型暗号でも,画像のコントラストを上げようとするとPSNR値は下がってしまうという問題が生じる.そこでPSNR値そのものを用いるのではなく,暗号化なしのハーフトーン画像のPSNR値と暗号化したハーフトーン画像のPSNR値との比である PSNR比という概念を導入した.最適化階調変換を手法を工夫することによって,コントラストを向上させるとともに,PSNR比も同時に改善することに成功した.2番目の課題である連続値を用いた暗号化処理については,並列誤差拡散法を改訂して特定解を得ることに成功した.今後は,この特定解を初期値として反復計算などを用いて最適解を得る手法を検討したい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究実績の概要】にも書いたように,平成25年度は暗号化された画像の画質について PSNR比という概念を導入し,画質改善を進めることに成功した.当初目標の連続値を用いた暗号化については,特定解を求めるところまでの成功にとどまっているが,これをもとに最適解を得ることは可能と見込んでいる.本研究課題は挑戦的萌芽研究であり,新しいアイディアや方向性を探求するものであることを考えると,画質改善に成功したことは大きな進展と考えても良いと思われる.したがって,研究全体としては着実に成果を上げているものと評価している.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は,いよいよ本題である「連続値を用いた暗号化処理」の完成を目指したい.すでに連続量を扱った暗号化には成功しているが,これは特定解であって最適解ではない.そこで,現在得られている特定解を初期値として,反復処理などを利用して最適解を得る方法を確立したい.
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次年度の研究費の使用計画 |
これまで画質改善に関する新しい手法を開発してきたために,連続階調を使った暗号化手法の完成がずれこんでしまった.連続階調を利用した最適な視覚復号型暗号を作ろうとすると,透明シートや印刷インクなどの物理的特性を計算に組み込むことになるが,最適解を得る手法が確立しておらず,結果として連続階調の資料サンプル生成と測定を進めるに至らなかった. 最適な連続階調画像を作成するためには,透明シートや印刷インクの物理的な特性(光の透過性)を計算に組み込む必要がある.平成26年度では最適解を得る手法を早期に確立して,実際の物理特性を組み込みたい.その際には,透明シートや印刷インクの特性を実際に測定する予定であり,測定装置や資料の購入に物品費が必要となる.また得られた研究成果を学会など場で積極的に発表していきたい.
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