研究課題/領域番号 |
24650041
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
飯島 正 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (20245608)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 情報システム / シナリオ / ペトリネット / シミュレーションゲーム / 物語生成 |
研究概要 |
平成24年度は,オブジェクト指向ペトリネットによる情報システムのモデル化と実行トレースから情報抽出しシナリオ生成するツールの構築を行った.オブジェクト指向ペトリネットは,既存のnets-within-nets意味論に基づいているが幾つかの点で拡張した独自のモデルを設計し,ヒューマンアクティビティとSOA(サービス指向アーキテクチャ)を融合させたビジネスプロセス(ワークフロー)記述言語を目指している.構築したプロトタイプシステムは動作を確認しつつ引き続き仕様の洗練化を図っている.その拡張点の一つは,JavaやScalaといったプログラミング言語で記述したオブジェクトと対応づけられる点である.これによってSOAに基づいたサービス連携が可能となっている.また,二つ目の拡張点として,ヒューマンアクティビティ記述の面で,コミュニケーション理論であるLAPに基づいて情報システム関係者間でのインタラクションについての記述能力を付与することを一部試みた.この点に関しても動作を確認しつつ引き続き仕様の洗練化を行う.第三の拡張点は,アスペクト指向技術に基づいてビジネスプロセスモデルを変換するものであり,実行トレースの生成に有用なプラガブルなロギング機能を与えるものである.さらに,これらの拡張を施したオブジェクト指向ペトリネットのエディタとワークフローエンジンを構築し,それらのツールを使ってSOAに基づく簡単な物流システムのモデル化を行った.このモデルは,本方式の有用性を検討するための材料として,さらに拡張していく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度には,研究計画の全体像を把握し,構築している技術とのマッチングを確認しながら研究を進めることを意図して進めてきた.そこで,当初,必要な要素技術として設定した個々の技術に関して,目標とするレベルには十分でなくても,できるだけ幅広くカバーして適用可能性を確認することを優先してきた.代替案に切り替える必要の有無を早い時点で評価することを考慮してのことである.その結果,必要な要素技術として考えてきた「業務システムのモデル化技術」,それもSOAとヒューマンアクティビティの両方に適合するモデリング技術に関しては本研究計画で進めているオブジェクト指向ペトリネットと,そのツールが適用可能であるという目途を付けることができた.また,ロギングによる実行トレースの生成と,そこからの情報収集に関しても基礎技術を 構築できた.すなわち,平成24年度計画に設定した要素技術に関して適用可能性の面で 方針転換が必要となることはなかった.もっとも,平成24年度に実現してきた個々の要素技術も,それぞれ,さらに仕様の洗練化を図り,機能を向上させ,完成度を高めることが必要であり,有用性検討用の業務情報システムのモデルも未だ規模は小さく,評価用例題としては十分ではない. 一方で,平成25年度計画に含めていた「システム挙動や情報システム関係者の挙動の可視化」機能に関して,特にヒューマンアクティビティの可視化のために基礎的な準備を一部開始している.これに関しては,「今後の研究の推進方策」の項にも述べるように,対象の挙動を確認しつつ,研究を進めることを優先したためである.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には,基本的に平成24年度に構築したプロトタイプを動かして,動作を確認しながら進めていく方針である.そのために,平成24年度は,各要素技術に関して幅広く並行して進めてきた.しかし,「現在までの達成度」の項に述べたように,動作確認にも有用な「システム挙動や情報システム関係者の挙動の可視化」機能は未だ十分な段階ではない.特に,情報システム関係者の挙動(ヒューマンアクティビティ)の可視化(とそれに必要なシナリオ記述言語の拡張)については,平成25年度の大きな課題である.そこで,この機能の実現を当年度の最優先課題と設定する.その上で,情報システムと関与者の幾つかの典型的な挙動を説明する物語の生成と,情報システム利用者の理解を促進するためのゲーム(ロールプレイングゲーム)を生成するツールの構築を行う.一般に情報システム利用者が,そのシステムを利用していく上で,いくつもの意思決定場面が出てくるが,それに対してどのように振る舞うかで,情報システムはいろいろな挙動を見せる.情報システムへの理解を高めるためには,ゲームを進めていく中で,どのような意思決定場面と選択肢を設定するべきかに関しても調査と考察を深めなければならない.これに関しては,システム構築と並行して,例題を拡充しながら進めていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
「今後の研究の推進方策」の項に述べたように平成25年度は,まず「情報システムの挙動と情報システム関与者の挙動」を分かり易く提供する可視化技術の実現を最優先におく.また,各種要素技術をさらに洗練化し,より大きな規模の分散環境での評価用例題モデルを構築しなければならない.平成24年度に購入した機材の一部は既にその目的にも使っているが,さらに,その実現に必要な機材(デスクトップPC)の購入に費用を要する. 加えて本格的な評価は,当初予定より本研究計画期間終了後(平成26年度以降)に行うが,それにつなげるためにも,できるだけ進捗中の研究成果の外部発表を通して評価実験のパートナー探しを行う予定である.そのために必要な旅費等を計上している.
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