研究課題/領域番号 |
24650048
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研究機関 | 筑波技術大学 |
研究代表者 |
井上 征矢 筑波技術大学, 産業技術学部, 准教授 (80389717)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 聴覚障害 / 電光文字表示器 / 視線計測 |
研究概要 |
聴覚障害者が電光文字表示器に表示された文章を読む際の特性を探るため、スクロール表示された文章を黙読する際の視線の動きを計測し、同時に文章の理解度を確認する実験を行った。文章は交通関連施設(主に鉄道)での表示を想定した内容とし、「通常の文章」のみでなく「必要最小限の文言のみ」で伝える表示についても計測した(計36種、同時表示文字数は10文字)。被験者は聴覚障害者学生27名であった。 前年度に行った15名の結果と合わせて分析したところ、全般に視線が文字のスクロール方向に徐々に移動してやや大きく戻る、という動きがみられるが、その幅は、マナーや危険防止等の「一般的な案内」よりも、遅延案内や乗車案内等の「その場・状況に固有の案内」や駅名が並ぶ「停車駅の案内」で大きかった。また鉄道駅・車内における電光文字表示器の現状調査で得た平均表示速度に近い3.5文字/秒であっても、文字表示範囲の後半1/4まで視線が移動することがあり、この傾向も「その場・状況に固有の案内」や「停車駅の案内」で多くみられた。文章の理解度については、表示後にその内容に合う項目を3~4択で選択させる方法で確認したところ、「一般的な案内」に比べて「その場・状況に固有の案内」で平均正答率が低い、日常的に手話を使用し始めた年齢が10歳未満の被験者群は、18歳以降に使用し始めた被験者群に比べて平均正答率が低い、「必要最小限の文言のみ」の表示であっても「通常の文章」と平均正答率に大きな差はない、等の傾向が得られた。 以上の結果は、内容を推測しつつ読める「一般的な案内」と異なり、その都度正確な読解が必要な「その場・状況に固有の案内」では、現状よくみられる条件の表示であっても読みに余裕がなくなる場合があることを示していると考えられ、聴覚障害者が緊急時において状況把握しやすくなるためにも、より分かりやすい表示方法の検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本語の速読が苦手な聴覚障害者であっても、必要な情報を効率的に受け取れるような電光文字表示器の表示方法について検討するため、これまでの研究において、聴覚障害者がスクロール表示された文章を音読する際の視線の動きを計測したところ、視線をスクロール方向に移動させながら(引きずられながら)読む傾向が健聴者よりも強く、特に固有名詞が並ぶ文(停車駅の案内)で顕著であった。しかしこの傾向が、聴覚障害者の発語することの労力が原因であるのか、読み自体の速さの問題であるのか、読み自体の問題である場合、文章の内容や型によって違いがあるのか、などのことが定かではなく、またその際の文意の理解度や、聴覚障害者の属性による影響についても把握できていなかった。 そこで平成24年度は、スクロール表示された文章を聴覚障害者が黙読する際の視線の動きの特性や、その際の文意の理解度を把握すること、手話での表現方法に近い、助詞や助動詞の多くを省略した「必要最小限の文言のみの表示」の有効性を探ること、障害の発生時期や手話への依存度等の聴覚障害者の属性による影響を探ること、などが主目的であり、これらのことについて概ね達成できたため。
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今後の研究の推進方策 |
スクロール表示された文字よりも静止した文字の方が読みやすく、速く読むことができるといわれている。また、古くから聾者の間で使用されてきた日本手話は、日本語とは異なる語順で表現されることがある。そのため、スクロール表示ではなく、テレビの字幕のように一定時間静止させて、自由な語順で文字を読める方が聴覚障害者にとっては読みやすい可能性がある。 平成25年度は、前年度に行った実験を健聴者学生に対しても行い、次に文章をスクロール表示する場合と、静止表示する場合の読みやすさの比較を行う。そしてこれまでに行ってきた研究の成果をもとに、電光文字表示器によって聴覚障害者に分かりやすく情報提示するための指針の作成を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度分の研究経費は、主に実験協力者や研究補助者への謝金、研究成果の発表費用、学会参加および研究打合せにおける旅費等として使用する。 なお、次年度使用額(B-A)については、「該当なし」である。
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