平成25年度は,主に大空間に情報を投影する環境での視覚特性の評価を行った. 平成24年度に構築した,高速に移動するスクリーンに輝点を投影するシステムを用いて,運動する物体の上にレーザ光でパターンを提示し,そのパターンの視覚による認識のもつ特徴を計測した.具体的に行ったのは,人間の注視点付近における形状識別実験(a),スパイク数識別実験(b),そして,特定の空間周波数パターンに対する提示方向の閾値測定実験(c)である.これらの実験では,移動するスクリーンとしてソフトボールを利用した. 形状識別実験(a)では,人間の注視点をボールが横切り,そのボール上にレーザによってボールより大きなパターンが描写され,そのパターンの種類を認識できるかどうかを調べた.パターンは三種類あり,これについては3人の被験者が100%の正答率で回答し,パターンの識別について残像知覚は可能であることが示された. 次に,同じ状況で1本から4本の本数の異なるスパイクを持つパターンを提示し,この本数を回答する形で認識率を調べたところ,4人の被験者中1人のみ正答率が100%で,他3人は35%程度の正答率となり,形状の識別よりも認識率が悪いことが明らかになった. 最後に,去年度調査した固定スクリーンに対する認識能力と比較をするため,特定の空間周波数パターンに対する提示方向の閾値を測定する実験(c)を行い,その結果,固定スクリーンより認識率が悪かった. 以上の結果から,残像を用いた像の提示は可能であるが,提示可能な範囲には制約が存在し,認識可能な視野が狭くなる可能性が示された.しかし,この制約は特定の場所だけを見ている人間にのみ情報を伝達することのできるディスプレイなど,新たな情報提示技術の実現が可能であることも示唆している.
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