研究課題/領域番号 |
24650051
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷川 智洋 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 講師 (80418657)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | バーチャルリアリティ / 認知メカニズム / 感情喚起 / インタラクション |
研究概要 |
任意の感情についてリフレクションを誘発するために,特定の感情と身体反応との対応付けをおこなった.Ekmanの分類に基づき人間の基本的な感情として,喜び・驚き・恐れ・怒り・嫌悪・悲しみの6感情を任意に独立して喚起させることとし,既に感情との対応について一定の知見がある表情の他,感情と深く関わるとされる心拍の上昇/下降や,手のひらや頭部の温度感覚の上昇/下降等がどの感情と結びつき得るかの対応を明らかにする実験を行った. 個々の対応付けを基に,リフレクションによる感情の喚起を誘発する疑似身体反応提示装置の構築をおこなった.本年度は表情筋の上下や,あるいは,目元への導水や頬への温度提示により涙や頬の紅潮を表現することで物理的に表情を変化させてみせるウェアラブル装置を構築した.また,カメラで取得した顔画像を,表情変形アルゴリズムを用いてリアルタイムで任意の表情に加工・提示し,加工された自分の表情を客観的に見られる環境を作ることで,自己の表情が変化しているように認知させる手法の実証を行った.個々の装置を用いた際のユーザの心拍数や心拍変動,皮膚コンダクタンス(発汗)など感情の変化に深く関わる生理的指標の計測を通じて,効果を定量的に評価すると同時に,ユーザの感情状態やその変化について,アンケートによる主観的な評価も行った.以上の評価結果をまとめ,各感情を喚起する条件を明確にするとともに,複数の身体感覚を統合してより感情喚起に効果的と考えられる刺激提示手法を検証した. 心拍に関しては,個人の心拍数を基に調整した心拍数を提示し,実際に自己の心拍が変化しているように認知させるために,胸部への触覚的な刺激の提示や,複合的に聴覚的・視覚的な刺激を提示するなどして,可体験化のバリエーションを増した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度,目標としていた,感情の変化と関連のある表情・心拍・温度感覚といった身体反応と,感情状態の対応付けをおこない,その対応に基づいてリフレクションを誘発するための疑似身体反応提示手法を構築することができた.また,構築した提示手法に対する主観的・定量的評価を通して,リフレクションを誘発し,感情を喚起するために効果的かつ汎用的な疑似身体反応提示手法を明らかにすることができた. こてにより,研究の目的である,VR技術を用いてあたかもユーザの身体が反応しているような人工的な刺激を生成・提示し,それが自己の身体反応の変化であると認知させることで,任意の感情を喚起させる工学的手法を実現できており,今後はそれぞれの効果を定量化・比較した上で,それらを組み合わせた汎用的な感情喚起システムを設計するための方法論や,その際に生じる条件を明らかにする予定である.
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今後の研究の推進方策 |
本年度に設計した提示手法を組み合わせるなどして,リフレクションを誘発し,任意の感情を喚起させるシステムを構築するとともに,ユーザによる主観評価や条件比較を通じて,システムの最適化をおこなう.また,以上の評価を提示手法の設計にフィードバックすることで,システム全体の効率化やシステムが有効に機能する条件の改善など,最適化を施し,リフレクションを利用して感情を喚起する汎用的な身体反応提示手法を確立する. 具体的には,本年度の実験で得られた知見を踏まえ,複数の疑似身体反応を効果的に組み合わせ,提示することによって,リフレクションを誘発し,6種類の基本的な感情状態の全てを任意に喚起させるためのシステムを構築する.構築したシステムについて,6種類の感情をターゲットとして,意図したとおりに感情が喚起されたか,本年度行った定量的評価手法と同様の方法でユーザ評価を行う.また,本評価を基に,引き続き疑似身体反応提示手法の構築,感情喚起効果の定量的評価と感情喚起条件の明確化に関して,複数の身体感覚が感情の変化に与える影響の評価を継続しつつ,システムの改良・最適化をおこなう.そして,以上の結果の知見をまとめ,体系化することで,リフレクションの誘発によって基本感情を喚起する疑似身体反応提示手法を確立する.
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品については,疑似身体感覚を提示する目的で,顔の位置や頭部の角度に合わせて涙や頬の紅潮などを模した表現を頭部に提示するための光学機器,工学部品,電子部品が必要となる.さらに,疑似的な心拍・温度感覚を自己の身体感覚として認知できるように提示するために,振動を胸部に提示する,あるいは温度を自由に変化して身体に提示するためのウェアラブル装置を構築するために,電子部品,機構部品が必要となる.その他,複数の身体感覚を組み合わせて身体に提示するためのディスプレイ部の造形制作が必要となり,必要な電子部品・機構部品を購入する. 加えて,被験者の心理・行動や,さまざまな計測装置により記録されたデータを記録するための媒体も必要となる.また,実験被験者に対する謝金と,研究の成果を国内外の学会で発表するための旅費資金および投稿論文費も必要である.
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