研究課題/領域番号 |
24650058
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
竹内 龍人 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (50396165)
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研究分担者 |
岡嶋 克典 横浜国立大学, 環境情報研究科(研究院), 准教授 (60377108)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 視知覚 / 薄明視 / 運動視 / 錐体 / 桿体 / 心理物理学 |
研究概要 |
人間が日常で晒されている環境の明るさは100億倍という広い範囲で変化しており、それに対応するために錐体と桿体というダイナミックレンジの異なる2つのメカニズムが機能している。環境光に基づく視機能は、錐体のみが機能する明所視、錐体と桿体が同時に機能する薄明視、そして桿体のみが機能する暗所視に分けられる。薄明視では、球技における視認性の低下や交通事故の低下など、運動物体に対する視覚的な感度の低下が見られるが、その理由は定かではない。今年度は、薄明視における運動情報の統合過程を、視覚運動プライミングという手法を用いて実験心理学的手法により検討した。その結果、明所視下や暗所視下ではプラミングの効果が表れる一方で、薄明視下ではプライミングの効果が消失することを発見した。明所視や暗所視など、錐体系あるいは桿体系いずれか一方のみが機能している状況下ではプライミングの効果が表れたされたことから、錐体系と桿体系が同時に機能する薄明視下では、その時間特性の違い故に両者から出力された運動情報は完全には統合されず、その結果としてプライミングが消失した可能性があることが示唆された。そこで実際に錐体と桿体における処理の時間差を補償するように刺激を提示すると、運動プライミングが再び観察されることがわかった。以上の結果から、薄明視における運動知覚感度の減少は、錐体と桿体の時間特性の違いに基づくと結論づけられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
眼球運動計測を組み込んだ実験環境の構築を完了し、薄明視下における運動視に関する実験を遂行した。実験の結果、薄明視下において運動プライミングが消失するという新しい知見を得た。さらに薄明視下における錐体細胞と桿体細胞の時間差を補完するような刺激布置を用いると、運動プライミングの知覚が復活することを実験的に示すことができた。これらの結果から、これまでほとんど研究がなかった薄明視下における運動知覚の変容をもたらす視覚メカニズムの解明への手がかりを得た。実験の途中経過を国内学会(日本基礎心理学会)と国際学会(Asia-Pacific Conference on Vision)で発表し、また査読付き国内学術誌(心理学研究)に投稿・受理された。包括的な実験結果を査読付き国際学術誌へ投稿できたが、現時点で審査中であり年度内の受理は適わなかった。そのために達成度としては「(2)おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
薄明視は錐体と桿体が同時に機能するという複雑性だけでなく、明所視から暗所視への単なる中間段階として見過ごされることが多いことから、薄明視における視知覚研究はほとんど進んでいない。今年度は視覚運動プライミングというパラダイムを用いて、運動知覚の時間的側面に関する検討を行い、新しい知見を得た。次年度はこの知見を元に、以下の2点について追求し、薄明視下の知覚を補償するシステムの構築につながる基礎データの取得に努める。 (1)錐体と桿体の時間特性の違いに関する個人差の要因を迅速に測定できる方式の開発。(2)環境全体の明度が急速に変化する場合(例えば明所視から薄明視への急速な変化)の運動知覚の変容に関する実験心理学的解明。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は今年度に構築した実験システムを用いて、心理物理学的実験を続ける予定である。また年度後半から、薄明視における補償システムのプロトタイプ作成を目指す。そこで物品費としては実験の遂行に必要な光学システムおよびプロトタイプ作成費にあてる(400,000円)。実験参加者は20名と見積もっている(謝金:100,000円)。また、旅費やその他の費用としては、今年度に得られた結果に関する学術誌掲載料および次年度の結果を学会や学術誌で公表するための費用を見積もっている(500,000円)。
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