研究課題/領域番号 |
24650058
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
竹内 龍人 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (50396165)
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研究分担者 |
岡嶋 克典 横浜国立大学, 環境情報研究科(研究院), 准教授 (60377108)
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キーワード | 視知覚 / 薄明視 / 暗所視 / 明所視 / 運動視 / 運動統合 |
研究概要 |
本研究では、環境光の変化によって大きく変容しうる運動知覚に着目し、錐体と桿体が同時に機能する薄明視下における視覚情報統合過程の実験的推定、及び補償システムの開発を目的としている。本年度は、先行刺激により、後続する多義運動テスト刺激の見かけの運動方向が一義に定まる視覚運動プライミングという現象(Takeuchi, et al, 2011, Vision Research)を利用し、様々な環境光においてプライミング現象の変容を検証した。 その結果、明所視下においてテスト刺激が先行刺激とは反対方向に知覚される負のプライミング現象には低次の運動検出機構が関与する一方で、先行刺激の運動方向にテスト刺激が引きずられる正のプライミング現象は高次の運動検出機構が関与していることがわかった。こういったプライミング現象は明所視・暗所視下では観察されるものの、薄明視下ではプライミングが消失する条件があることを見いだした。プライミングの消失は先行刺激とテスト刺激の空間距離が離れている場合に顕著であった。しかしながら、先行刺激とテスト刺激を時間的に重ねて提示すると、プライミングが観察された。 この結果から、薄明視下において先行刺激とテスト刺激を処理する錐体と杆体の時間応答差により運動情報統合が阻害されると結論づけた。この結果を国際学術誌(Journal of Vision)および国内学会(日本心理学会)で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、薄明視における運動検出特性の変化は、錐体と杆体の時間応答差に基づくものであるという実験的証拠を得た。この実験では、薄明視では先行刺激とテスト刺激が空間的に離れている時、つまり両刺激がそれぞれ錐体と杆体を刺激している時には視覚運動プライミングが生じないこと、そして両刺激の提示時間差を減少させるとプライミングが生じることを見出した。 プライミングは時間空間的に離れた運動刺激の統合により生じる。したがって本研究から、錐体と杆体における応答時間差を補償してやれば、薄明視において生じていなかった適切な運動情報統合を回復させることができるという示唆を得た。 本研究計画の最終目的である薄明視における補償システムの開発という点から考えた場合、そもそも何を補償すればよいのか、という最も重要な問題について解答を得ることができたという点から、これまでの研究はおおむね順調に進んでいると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画は以下の二点にある。一つは、今年度までに行った実験では薄明視の条件は一つのみに絞っていたという点についてである。実際には薄明視の領域は、ヒトが生活する環境では3対数単位以上という広い範囲にわたる。今年度は、ある薄明視レベルにおける視覚運動プライミングの消失は、錐体と杆体の応答速度差に基づく視覚運動情報統合の不完全さに起因することを見出した。しかし、これが他の薄明視レベルにおいても同様の結論が当てはまるのかどうかを確認する必要がある。次年度はこの点を実験的に解明していく。 二つ目は、薄明視における補償システムの考案である。薄明視における運動知覚感度の低下が錐体と杆体の応答時間差に基づくのであれば、これまでに知られている錐体と杆体の空間的な分布および網膜照度レベルに依存した貢献度の割合(e.g., Rafael & MacLeod, 2011, Journal of Vision)を組み込み視覚情報の補正をすることで、薄明視における時間的に変化する視覚刺激への補償が可能になると考えられる。次年度は、この点の開発を中心に行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
主な理由は、当初予定していた国際会議への投稿を行わなかったこと、およびシステム開発を次年度に集中して行うことにしたためである。 次年度は、国際会議での発表およびシステムの開発に予算を使用する予定である。
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