文章に表現されている感情を推定することは、文章の音声自動読み上げや感情教育など、さまざまなアプリケーションの基礎となる技術である。本研究では特に、物語文中の登場人物の個々の発言に表現される感情を推定する研究に取り組んだ。クラウドソーシングで得られた感情ラベルに対し、計算機による統計的品質制御を導入することで、高い精度で感情を推定することが可能となった。一方物語文中の感情は、それぞれ独立に生成されるのではなく、悲劇や喜劇といった物語全体の感情の傾向、登場人物の性格、ストーリー展開の中での文脈といった制約に支配される。感情ラベル推定のための従来の確率モデルに、このような感情の一貫性と文脈情報を考慮するための拡張を加えたモデルを提案した。この確率モデルを用いて感情ラベルを推定するアルゴリズムを開発し評価実験を行った結果、感情の一貫性と文脈情報を考慮することで、従来のモデルよりも高い精度で感情ラベルを推定できることを示した。 また、現在の感情情報処理の研究では、中村の10基本感情モデルやEkmanの6基本感情モデルなど、様々な種類の感情モデルが用いられており、このことが、ある感情モデルで作成したデータが、他の感情モデルを前提としたシステムで使用することができないといった互換性の問題を生じている。このような感情モデル間の互換性の問題を解消するアルゴリズムの開発を行った。 最終年度は主に、前年度までの研究成果のとりまとめと対外的な発表を行った。物語文中における感情の一貫性と文脈情報を考慮した確率モデルを提案し感情ラベル推定を行った研究を、電子図書館分野の主要な国際会議であるJCDL2015で発表した。また、異なる感情モデル間の互換性の問題を解消する研究を、人工知能分野の主要な国際会議であるIJCAI2015で発表した。
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