研究課題/領域番号 |
24650072
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研究機関 | 国立情報学研究所 |
研究代表者 |
稲邑 哲也 国立情報学研究所, 情報学プリンシプル研究系, 准教授 (20361545)
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研究分担者 |
新井 紀子 国立情報学研究所, 社会共有知研究センター, 教授 (40264931)
横野 光 国立情報学研究所, 社会共有知研究センター, 特任研究員 (60535863)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 自然言語処理 / 物理シミュレーション / 曖昧性解消 |
研究概要 |
平成24年度では,物理の試験問題,特に質点の運動に関する力学の問題に解答するためのシミュレーション環境の整備,および自然言語理解に基づくシミュレーションモデルの変換プロセスを開発した.力学の問題回答には,物体,バネ,ひもの位置や長さ,複数物体間の配置関係などの様々な機械要素の状態を理解する必要があるため,自然言語で記述された構成要素間の関係を,Modelicaと呼ばれる機械システムの設計記法に変換し,三次元シミュレータ上での力学シミュレーションを実行可能とする手法を開発した.具体的には物理現象・状態を表現する自然言語を論理式に変換する独自の規則を定義し,回答として答えるべき物理量を指定することで,回答に必要な演算を自動的に生成するアルゴリズムを考案した.さらに,自然言語の解釈に曖昧性があり,三次元的な機械要素の配置関係や物理的制約条件等が確定できない状況にしばしば遭遇することになるため,全ての解釈の可能性を列挙し,シミュレーションを実施することで問題文に記載されている内容との矛盾を検出し,妥当な候補だけを解釈として選択するような曖昧性解消手法を確立した.シミュレーションの結果は,物理的状況を説明する全ての状態変数の時系列情報であるため,その中から問題が問うている情報を抽出するために,自然言語表現と数値演算処理の対応関係を定義した.最終的にこれらの要素を結合し,物理の問題を解くための基盤システムが有効に働くことを検証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の当初の計画は,自然言語で記述された物理の試験問題を,物理シミュレータ上にモデルとして実装し,シミュレーションを実施しながら回答をする基盤システムを構築することであった.当初の予定通り,自然言語表現をModelica記法によるモデル表現に変換する基本モジュールを構築し,過去のセンター試験の力学の問題を対象として,8割程度の問題はシミュレータモデルに変換できる状態となった.また,予定通り曖昧性のある状況において,取り得る可能性を全て列挙し,その中から妥当なモデルを選択するための基盤システムも構築を完了した. なお,当初の予定では図の理解を一つの研究項目としていたが,これは本質的な問題ではないことが判明したため,図の理解ではなく,シミュレーションの結果すなわち物理的状況を説明する全ての状態変数の時系列情報から回答に必要な情報の抽出アルゴリズムを構築する計画に微修正し,実施した.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には以下の3点の項目を研究する (1)推論に基づく解析的な回答プロセスの確立:シミュレーションによる数値演算だけでなく,物理の公式を用いて解析的に回答するための推論システムの在り方を明確にし,それを実装する. (2)解答文章生成処理の確立:シミュレーション結果だけを出力とするのではなく,文章による回答を出力とするための方法論を明確にする. (3)定性推論を参考としたシミュレーション技術の開発:数値的な精密なシミュレーションが困難な電磁場や熱力学の問題へ対応するため,定性推論を参考とした定性的なシミュレーション環境の実装方法を確立する
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次年度の研究費の使用計画 |
自然言語処理と物理シミュレータを統合する必要があり,この2点をそれぞれ実装するために技術的な補佐員の雇用を行う.また,数値演算的アプローチと解析的なアプローチの統合を行うためのソフトウェア(Mathematica)を購入する
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